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王子様は待ってくれる
今日は仕事終わりに彼氏とデートの約束。
その予定に遅刻真っ最中の俺!
会議が長引いちゃったんだ! 彼氏に連絡を入れて、待ち合わせ場所の駅前まで猛ダッシュ!
「あ!」
俺の彼氏はイケメンだ。遠くからでも良く目立つ。俺と同じスーツ姿なのに、どうしてこうも違うんだ。
遅れてごめん、と大きめの声を出そうとした瞬間、日頃から運動不足の足がもつれて、俺は駅前という目立つ場所で派手に転んだ。
「……」
恥ずかしくて顔が上げられない。けれど、コツコツと一人分の足音が近付いて来て、やがて俺の前で止まった。
「大丈夫?」
「……ハイ」
俺はのそのそと起き上がって、こっちまで来てくれた彼氏と目を合わせて「遅れてごめん」と小さな声で言った。彼氏は笑う。
「仕事だもん。仕方ないよ……それよりさ」
彼氏はハンカチを俺に差し出しながら言う。
「鼻血、出てる」
「え!? マジ!?」
「うん」
彼氏はぴしっと綺麗にアイロンのかかったハンカチを俺の鼻に押し当てる。ああ、汚れちまうよ……ごめんな。心の中で謝りながら、俺は俯きながら彼氏に言う。
「毎回、格好悪くてごめん」
「ん?」
「初デートの時も遅刻したし、次のデートの時だって道に迷って……」
「そんなの、気にしてないよ」
ふふっと彼氏は笑う。
そして、俺だけに聞こえる静かな声でこう言った。
「君はいつだって格好良い、僕だけの王子様だよ」
「お、王子!?」
「彼氏なんだから、王子だよ」
「そ、そう……なのか?」
「ふふっ」
彼氏は恐ろしく整った顔を俺に近付ける。
「僕の前だけでは、お姫様でも良いけどね」
「な……!」
「さて、鼻血は止まったみたいだし、早くお店行こ? もうすぐ予約の時間だよ」
俺の手からスマートにハンカチを奪うと、彼氏は「ん」と左手を差し出す。俺は人目を気にしながら、そっとその手を取った。
微笑む彼氏の姿が、俺にはもう王子様にしか見えなくなった。俺なんかより、ずっとお前は王子だよ。
ずっと待っていてくれていた彼氏の手は冷えている。その手にぬくもりが戻るように、俺は手にぎゅっと力を入れた。
「最高のディナーにしようね」
「……ハイ」
大好きな俺だけの王子様。
その前だけでは、お姫様になるのも悪く無いかも、なんて思った。
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