「クロスロードの靴」 60 「手紙」

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「クロスロードの靴」 60 「手紙」

 秀介さんへ  なにも言わずに出て行くことを許してください。本当にごめんなさい。ここを出て行こうと決めたのは、突然のことではありません。前々から考えていたことです。どうしてか、理由を知りたいですよね。あなたはいつも私たちを支えてくれました。いつでもはげましてくれました。うれしく思っていました。でも、あなたのがんばりが、私たちには苦痛でした。体を壊すくらいに無理をしているのが手に取るようにわかるからです。今日までいろんな人との別れを経験して、悲しい思いを乗り越えて、少しずつ強くなって、やっとわかったことがあります。私たちは自分の足で歩いていない。私たちは裸足のまま、いつもあなたにおんぶされて、すべて背負われていたのです。これでは生きているとは言えないですよね。自分の人生を歩いているとは言えない。だから新しい靴を履いて、一歩から歩き出そうと、歩き出さなければいけないと思いました。分岐点で迷って、いつまでも立ち止まっているのではなく、夢を抱いて靴を履く。夢に向かって一歩踏み出すことから始めなければと、やっと決心しました。自分勝手なことかもしれませんがわかってください。秀介さんなら遠く離れた場所からでも応援してくれるかも。これも身勝手な想像でしょうか。秀介さん、直接伝えられなくてごめんなさい。あなたの顔を見れば、私たちの決心はもろく崩れ去るでしょう。またあなたに甘えるだけの人生を過ごしてしまいます。今、自分の靴を履かなければ、私たちは二度と歩くことができなくなります。秀介さん、いつもの包容力を持って、私たちの意志を理解してください。お願いします。長々と書いたようですね。もう最後にします。秀介さん、私はあなたに感謝をしています。私の思いが誤解なくあなたに伝えられたなら、私は幸せです。秀介さん、初めてのお別れですね。ごめんなさい。  かおり。  追伸。私たちは昨日のことを一生忘れません。私たちの大切な想い出です。ありがとう。  あやね。
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