恋愛前夜

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「友達に戻る……?」  私は彰人の言葉とゆっくりとなぞった。「そんなことができるの?」と呆然と問う。 「ユキが望むなら」と彰人は答えた。「彰人は、望まないかもしれない」と私は返した。すると彰人は私を抱きしめる腕を解いて、私の手を握って、私の目を見つめた。 「だから、話し合おう。ちゃんと納得できるように。俺は、ユキを今のユキみたいには絶対させない」  真摯で誠実な誓いだった。私の心までまっすぐに届いた。私は力なく頷いた。そんな私を見て、彰人はほんの少し笑った。 「じゃあ、もうひとつの話し合い」  そう前置いて、彰人は切り出した。 「俺はユキが好きだよ。ユキと恋人になりたい。ユキは?」  真っ向から告げられて、どくん、と心臓が跳ねる。思わず目を逸らしそうになったけど、逸らさずに、彰人の目を見て答えた。 「好き、だよ。でも、今まで、彰人と恋人になりたいと思ったことはなかったの。……でも、」  目を見て、最後まで言うつもりだったのに。込み上げてきた熱っぽい感情に怯んでしまった。 「こうしていると安心して、嬉しいと思う」  彰人の温度を感じる手に、視線を落として言った。「それは、」と声を動揺させた彰人の目は、やっぱり見ることができなかった。「キスも、今は嫌だと思わない」  息を呑む音が聞こえた。私の手を握る指先が、強張るのを感じた。様子を窺うように、意を決して彰人を見上げたら、彰人は余裕のない眼差しをしていた。その表情を見て、私の心がはっきりと熱を持つ。心がそうしたいと願うままに、彰人の指先に自分の指先を絡めた。 「……俺も、少しは酔ってるから」  掠れた声が、努めて冷静に言おうとする。 「ここでなし崩しに恋人になるのが嫌なら、手を離して」
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