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「たくさん話したからな。あの時は、何を伝えていて、何を伝えていないかが、わからなくなっていた。犠牲者の話だったら、最初に言っただろうと思い込んでしまった――申し訳ない……」
「ああ、いえ……影が薄いわたしが悪いんです……」
「沖田、斉藤初が『影が薄いわたしが悪い』って項垂れてる」
「そうか。すまない。……君には、申し訳ないと思っている。奏を助けようとしてくれて、本当にありがとう」
孟は、何もない空間に向かって、頭を下げた。初は、胸がぎゅっと締め付けられる感覚に襲われた。
「いえ……こちらこそ……そのお言葉だけで、嬉しいです。ありがとうございます……」
「沖田。彼女、笑ってくれてるよ。礼を言ってる」
「教えてくれてありがとう、近藤」
「どういたしまして。ちょっと絵面がシュールだけどね。――とまあ、そんな疑いをもって、原田さんたちに調べてもらってたんだけどさ。空振りだった」
「だけど、俺が何か知っていると思った――そういう話か」
「沖田だって調べてただろ? 遺体を取り戻すことが目的だったとしても、それは同じく僕が捜している犯人へと行き着く。つまり、ゴールは同じだ。――何か、掴んだんだろ?」
わずかに細められる孟の瞳。それだけで敢には十分だった。
「そうだ、沖田。木って、あの木のことか?」
突如明るい声を出して、敢が窓の外を指差す。確認しようと窓に近付く孟に、初も倣った。
「ああ。隣家との塀のそばにある木だ。それが、どうかしたのか?」
「んー? 沖田。それはないんじゃないか? ちゃんと話せよ。知ってること」
青年二人の視線が交錯する。やがて、長身が一つ溜息を吐いた。
「お前には敵わないな」
「そうだろうそうだろう。わかったら、ほら。さっさと吐いちゃえよ」
「まるで、俺が悪いことをしたみたいだ」
やれやれと肩を竦める孟は、観念したかのように淡い苦笑を浮かべている。
初はわけがわからず、首を傾げたままだった。
「あの木を使って、何をしようとした?」
「何って、我が家の敷地に生えている木だ。お隣さんへ枝が伸びる前に、切らないといけないだろう? その時に、うっかり枝が塀の向こうに落ちないよう気をつけながら、な」
「あっははははは! そうだね。それは、気をつけないといけないよね」
「隣……隣って……もしかして、芹沢煌――奏ちゃんの幼なじみの子の家?」
初の呟きに、わかっていたのだろう。敢がニヤリとほくそ笑む。
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