バラバラドール

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 電車に乗り、数分。難なく着いた目的地のホームに、降り立つ。改札も出口も一ヶ所の小さな駅は、当たり前だが何の変哲もない。 「あれ? 来たこと、ないはずなんだけどな……」  刹那、初は既視感に襲われていた。先程、降りたことがないと口にした言葉は、嘘ではないのに。 「ま、駅なんて、だいたい同じ造りだろうし。路線が一緒だから、似ているところもあるよね」  少女は自身をそう納得させて、辺りを歩き始めた。 「んー、やっぱり、綺麗に掃除されてるなー」  電車が去っていったばかりのホームは、人がまばらで。初は、ゆっくりと端から端まで歩いてみることにした。しかし、やはりというか、何というか。至って、何の変哲もない普通の駅である。何もおかしな点は、見受けられない。  黒髪のドールが目撃された場所もわからないし、もちろん未だに転がっているということはないだろう。そもそも黒髪のドールは、ネット上にしか情報がなかった。デマの可能性もあるし、すぐに持ち主が見つかったのかもしれない。でなければ、そうそう駅にドールが転がっているなんてことはないのだから、こちらもテレビで話題の餌食になっているだろう。  考え事をしていた初は、心ここに在らず。きょろきょろと余所見をしながら歩いていたため、危うく人にぶつかりそうになってしまった。慌てて、頭を下げる。 「す、すみません……!」 「えっ、あ、ああ……こちらこそ」  どうやら、相手も余所見をしていたらしい。にこりと微笑み返されただけで、またどこかへ行ってしまった。 「すごく綺麗な顔の人だったな……男の人かな?」  服装が男性もののそれだったのと、声が低めだったため、おそらく男の人なのだろうが、とても美人だった。  優しそうな人だったなと見惚れながら、初は調査を再開する。 「ここら辺は、もう見たからな……向こう側にも行ってみようっと」  初は、念のために反対側のホームやトイレ、階段など、駅の隅から隅を歩き回った。だが、その努力に見合う結果は、まったく得られなかった。 「まあ、そうだよね……そんな気はしてたよ……仕方ない。帰ろう……」  やっぱり何もなかったかと、肩を落として、初は踵を返す。ホームで手持ち無沙汰に電車を待っていると、彼女はふいに知っている顔を見つけた。 「あれ……あの人……」
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