バラバラドール

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 向こうはこちらに気付いていないが、間違いない。高身長のクールな佇まい。ふわりとした茶髪が似合う、端正な面立ち。彼は、沖田(つとむ)。三つ上の、奏の兄だ。 「お兄さんだ……久々に見た……」  小学校が一緒で、彼をよく見かけていた初だったが、中学、高校と進学するにつれ、行動時間がまったく異なるようになってからは、彼に会うことは滅多になかった。 「でも、何でここに?」  初は首を傾げる。どうして彼が、ここにいるのだろうか。高校はまったく方向が違うし、そもそも今日は休日。とはいえ、この辺には遊び場になるような施設はない。友達の家でもあるのだろうか。  少女が横目で不思議に思いながら見ていると、彼に近付く一人の男がいた。友人か後輩だろうか。低身長ながら、やけに綺麗な顔をしている。そこで初は気付いた。彼は、先程ぶつかりそうになった美人だ。  だが青年は、初が見ていることにも気付かずに、彼のパーソナルスペースへ入った。初の元まで、会話が聞こえてくる。 「沖田、どうだったの? 収穫はあった?」 「あったように見えるか?」 「わかんないよ。沖田、顔に出ないから」 「……ないな。何もない」 「そっかー。まあ、簡単に出てくるわけないよね」 「近藤(こんどう)、お前はどうだった?」  孟が、友人らしき男へ目線だけを向ける。問われた青年は、ニッと含むように笑った。 「あったと思う?」 「思わないな」 「あははっ、当たりー。僕、沖田のそういうところ好きだよ」 「そうか」 「あ、もうすぐ電車来るみたいだね。これ以上は、いても変わらないだろうし、もう帰ろうか」 「ああ」  電車が間もなく到着するというアナウンスに、初の思考も一旦途切れた。 「あの人、お兄さんの知り合いだったんだ。世間って狭いな。それにしても、あるとかないとか、収穫とか……何だろう? 何かを探しているのかな? ――って、詮索したところでってカンジだけど……」  初は、多少彼らが気にはなったものの、知ったところでどうということはないと意識を逸らした。気があるわけでもないし、彼は少女にとって、ただの友達のお兄さんだ。奏本人ならともかく、彼がどこで誰といようが、関係なんてないし、どうでもいい。  と、そこに電車がホームへ滑り込んできた。帰るとなると目的地は一緒だろうが、初にはここで彼らに話し掛ける義理もない。向こうはこちらのことなど覚えていないだろうし、連れがいる。いなくても、選択した行動に変わりはないけれど。
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