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「ん? だって、沖田が今日の昼じゃないと空いてないって言うから……」
「だから、俺に合わせる必要はなかっただろう? 事故直後なら、他にも手がかりがあったかもしれない」
至極真面目な顔で告げられた敢だったが、孟の意に反して、その表情はきょとんとしたものだった。
「何だ。間抜けな顔をして、どうした」
「まぬっ……! ひどいなあ、沖田。誰が間抜けな顔なんだよ。この自他ともに認める美形に向かってさー。もう、失礼しちゃうよねー」
ぷくっと片頬を膨らませる美青年だが、ここには湧き上がる女子など一人もいない。目の前のクールな青年は、無視をした。
「俺と一緒に行動をする意味があるのかと、聞いている」
「……無視なんて、ひどすぎる……まあ、そこが沖田らしいけど……」
「何だ? 何をブツブツ言っているんだ?」
「何でもないですー。……ただ、沖田ってさ、今の本気で言ってるのかな? って思ってね」
「今の?」
「事故直後なら、他にも手がかりがあったかもしれないって話」
しれっと敢が告げると、目の前の男は表情を一切崩すことなく「ああ」と、気のない声を出した。
「可能性の話だ。確率は低いが、ないとは言い切れない」
「まあね。どうせ、そんなところだろうと思ったよ。だけど、考えるまでもないよ。低いも低い。そんな確率は、ほぼゼロだ。何せ、捜査後の現場だからね。電車の運行が通常に行われている時点で、何か残ってる方が問題なわけ。だから、期待はしてなかったよ。つーわけだから、安心しろって。沖田のせいで手がかりを逃したとか、そういうことはないからさ。こんなことで、沖田を嫌いになったりはしないよ」
「そうか。お前がそういうなら、いい。いや、心配をしていたわけじゃないんだ。嫌われるとか、そういうことも含めてな。俺はただ、お前が動きやすいように動けば良いと、そう思っている。ただ、効率的でないことが、気になったんだ」
穏やかな表情でこちらを見上げてくる同級生を見下ろしながら、青年は彼を相変わらずの効率厨だと、心の中で評価した。
「まあ、僕にもいろいろあるんだって。それよりも、沖田は僕のことなんて考えている余裕があるのか? ご両親、大変なんだろ? その、妹ちゃんからのメッセージ? ってやつでさ……」
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