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「あ、ああ……そうだな……」
美青年の言葉に、表情を曇らせる孟。いくら何でも、この話題振りは失敗だっただろうかと、さしもの敢も戸惑った。
だが、あまりこちらの事情に関与させたくはない。こちらは深入りする気満々だが、逆は駄目だ。彼のためにも良くないと、敢は思っている。
いくら、彼自身でさえ調査対象だったとしても――
「――あ、ああ、ほら。次、沖田が降りる駅だよ。降りる準備、しとかないと、な」
「そんなことは、言われなくてもわかっている。子どもじゃあるまいし、そんなに焦る必要はない」
「嘘だー。前に乗り過ごしてたくせにー」
「あ、あれは、お前が――」
「はいはい。そんなこと言ってると、また降り損ねちゃうよー」
パッと吊り革から手を離して、目の前を開けてやる。孟は不服そうにしながらも、素直に立ち上がった。
「じゃあ沖田、また学校で。何かわかったら、連絡するから。そっちも、何かあれば連絡しろよー」
「ああ」
「気を付けてなー」
降車する背中に手を振って、敢は先程まで彼が座っていた座席に腰掛けた。そうして、ゆったりと上げた視線の先――友人には見せたことのない鋭い瞳の先には、目立つ高身長の茶髪の姿があった。
だが、気になるのはそちらではない。まっすぐ階段に向かって歩いていく彼の後方を、黒い頭が追うように動いていた。青年はその様を、そっと確認する。
「やっぱり、あの子だ。駅でぶつかりそうになった、あの時の……」
電車はあっというまにスピードに乗り、二人の姿は呆気なく視界から消えた。敢は残像を思い浮かべるように、目を閉じる。
敢が先程まで座らずに立っていたのは、彼女の存在に気が付いていたからだ。ホーム上で、自分たちへと向けられていた視線――それを、彼は捉えていた。
「沖田は気が付かなかったみたいだけど、僕って、視線には敏感なんだよねー」
そうして、青年は思う。やはり、彼とともに来て良かったと。
実は、敢は孟に内緒で、事故直後に例の駅を訪れていた。とはいえ、一般人が足を踏み入れられる頃には、既に片付けや処理が終わった後。彼に先述した通り、わかってはいたが、撮った写真は今日のものと、何ら変わりはなかった。
だから今日、もう一度来たのだ。彼と一緒ならば、何か違う情報が得られるかもしれないと踏んで。
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