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とにかく、孟の体に何かが取り憑いているようなことはない。だが、彼のそばで不思議なことが起きているのは、間違いない。
そうして、今日見かけた、あの黒い頭――
「もしかして、あれが噂のドールだったのか……?」
黒髪の、制服を着たドール――もしそうだとしたら、孟は狙われている?
「いや、まさか……いくらなんでも、ドールが人間サイズで動き回っているはずが……」
確かに見た目は中学生だった。だが、どうも中身が他の人間とはズレていた。
それが、そういうことなのだとしたら――
「とはいっても、同じ車両に乗ってこなかった。こっちには意識が向いていなかったから、標的にはされていない……」
だけど、あそこで逃したのは、痛かったかもしれない。追っていれば、何らかの手がかりが得られたかもしれなかったのに。
「でも、事を急いてしくじるわけにはいかないからな……黒髪ドールも気になるけど、今僕が対処するべきは、バラバラドール事件なんだから」
百歩譲ってあの黒頭がそうだとして、それが「あの子」ではなかったら? 他にも敵がいるのならば、もうしばらく泳がせておく必要があるだろう。
バラバラにされていた、女の子のドール。きっとそのドール自体には、手がかりはない。
だが、じゃあどこにあるのかと問われると、敢は何も言えなかった。
「やっぱり、今回も作るか……情報サイト」
自分は、彼らの協力者だ。犯人逮捕の一環なのだから、開示できるギリギリの情報をもらうとしよう。
「テレビも新聞もラジオも駄目――ときたら、今時はネットだよね」
これで、上手く引っかかってくれるか――そうでなくとも、新たな情報は集まるかもしれない。とにかく、やってみるだけ意味はあるだろう。
孟にも協力を仰げるかもしれないと、敢は考える。何せ、依頼者だ。早期解決のためと言えば、手を貸してくれるだろう。
「沖田って、人を疑わないよな……」
純粋でまっすぐで、冗談が通じない。猫かぶりの近藤敢が素を見せていなくとも、まるで構わないような反応。人から好かれていようといまいと関心がないような、どうでもいいとさえ思っているかのような態度――どこか、そんなことはどちらでもいいと言われているかのようなそれに、周りは「クール」という評価を与える。
だが、果たしてそうか――敢はどこか、違和感さえ覚えていた。クールと言われると、そうかもしれない。だが、時折それではしっくりこないことがある。
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