バラバラドール

19/26
前へ
/115ページ
次へ
「冷静……冷酷……冷徹? 辛辣? いや、違うな」  それよりももっと、彼を評するに相応しい言葉があるはずだと、美青年は頭を捻る。  そうして閃いたのは、およそ友人に使うような言葉ではなかった。 「調査対象……自分とそれ以外の人間――それほど、本人の中ではっきりと線引きされているかどうかはわからないけど、周りの人間のことを、研究対象か何かだと思ってるかもしれないな」  無関心かとも思ったが、そうでもない。それよりも、先程の言葉の方がしっくりくる。沖田孟は、まるで実験でも繰り返しているかのように、様々な事象、場面における人間の反応、行動を一歩引いて眺めている――そんな化学実験のようなことを、周りの人間で行っている……そういう印象だった。  それが無自覚であるかどうかは敢にはわからないし、ハッキリさせるつもりもない。しなくて良いこともあると、敢は深入りを避けた。  このことは、どこか藪蛇になりそうだと勘が告げていたからだ。  だから、敢も彼には必要以上は近付かない。必要性が生じるまでは、絶妙な距離を保つつもりだ。  近藤敢にとって大事なことは、事件の究明であるからだった。 「というわけで、沖田には悪いけど、妹ちゃんのこと、ちょっと調べさせてもらうよ」  くすりと笑みを浮かべて、敢は考え込んでいた顔を上げた。 「あれ……?」  そういえば、先程から流れる景色が知らないものになっている。  表示を見ると、最寄り駅をとうに過ぎ、知らない町までやって来ていた。 「これは……沖田のこと、言えないな……」  ぽりぽりと頭を掻いて、とりあえず到着した駅で下車した敢。  次の電車を待つ間、同級生をからかったことを、反省したのだった。 ◆◆◆  どれだけ、画面の向こうで凄惨な事件が起ころうとも、誰が亡くなろうとも、ひとたび朝がくれば、人々は日常に身を沈ませる。家族や恋人といった、遺された人々の思いを置き去りにして、騒ぐだけ騒いだ世間は、今や知らん顔をして、平凡な毎日を過ごしている。  時間は、良くも悪くも平等に夜を明けてしまうから、渦中にいても、無理矢理に歩き出さなければならない時だってある。  たとえ、心が置き去りになっていたとしても。待ってくれる人なんて、いないから――それが、斉藤初の考えだった。 「いつか、忘れていくのかな? 匂いとか、声とか、仕草とか、顔とか……」
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加