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他の子よりも大人っぽくて、綺麗で、クールだけど優しくて、頭が良くて、いつも堂々としている、初の憧れの人。
初は、いつも思っていた。彼女は「わたしとは、全然違う人」だと。
いつ見ても眩しくて、初は奏のようになりたいと、ずっと思っていた。
いつまでも見ていられて、元気をくれるアイドルのような存在。
誰よりも大好きなクラスメイト。
大好きすぎて、初は奏に会うために学校へ行っていた。それだけのためと言っても、過言ではなかった。
朝目を覚ますのも、奏に会うため。
勉強を頑張るのも、奏のそばにいるため。
初の生活の何もかもが、奏を中心に回っていた。
彼女のそばにいるための努力なら、初は何だってできた。
それくらい、初にとって奏は、大好きで、大事な人だった。
――そんな彼女が、ある日突然亡くなった。
入学したばかりの頃だった。生まれて初めて初は、運命というものを呪った。
道路に飛び出した子どもを助けようとして、奏は大型トラックに撥ね飛ばされたのだ。
運転手も子どもも、まったくの無傷で無事だったが、奏は頭部と全身の強打により、手の施しようのないほどの即死だった。
アスファルトを染めていく鮮血はじわじわと動いて広がっていくのに、初の目の前の彼女は、ぷつりと糸の切れたマリオネットのように、呆気なく動かなくなったのだ。
まるで、弾むボールのように軽々と宙を舞う華奢な体を、初は生涯忘れないだろう。
彼女の見開かれた瞳に映った、初の驚愕に染まった顔さえ、焼き付いて離れることはない。
そうして同時に、初の時間もその瞬間、止まってしまった。
彼女はしばらく、その場から動くことができなかった。まるで、石になってしまったかのように指一本すら動かせず、心が急くばかりで、奏の体へ駆け寄ることすら、できなかったのだ。
今や、自身を顧みず行動した奏の勇気は、当人のことを知らないどこかの誰かでさえ涙する、悲しき美談となった。
彼女の行動は運命として、悲劇と感動に彩り飾られてしまった。綺麗に纏められてしまった。それはあたかも、フィクションであるかのように……。
初にはどうしても、それが奏のことを早く忘れるためにしている行動にしか見えなかった。
遺された者が、前を向くために。彼女の生や死に、意味を持たせるために。
ただそれだけのために、沖田奏という一人の人間の人生を、物語としたかのようにしか、見えなかった。
「奏ちゃんが、そう望んだわけでもないのに――」
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