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過去のこととなったら、長い人生の中でそんなこともあったと、思い出として語るようになるのだろうか――初は、自身に問い掛ける。
そうしたいのなら、すればいいだろう。その方が楽であるなら、自由にすればいい。
「だけど、わたしは嫌だ……」
留まることの何が悪いのかと、少女は声を大にして問いたかった。
進みたい時に、進めばいいではないか。心を過去に置いていってしまったら、二度と取りには戻れない。そうではないのか。だって針は、逆回転なんてしてくれない。
やりたいことをやる。心のままに――それが、初の願いだった。
「新しい情報は、なし――か……」
大型トラックの若き女性運転手、藤堂徳死亡事故より、数日が経過していた。ニュースや新聞では、次々と新しい話題が取り上げられており、まるでそんな痛ましい事件など存在しなかったかのように、綺麗さっぱり聞こえてこなくなった。
そのため初は、再びネットを頼みの綱としていた。デマが多いことも、彼女はわかっているつもりだった。だけど、今の少女には、これしか方法がない。
どうして、斉藤初がここまで彼女の死について調べているのか――少女が例の事件を「ただ単に気になっている」からというのも、嘘ではない。だけど、一番は奇妙であるからだ。
自殺だろうと、事故だろうと、他殺だろうと、どれだって可能性はあるだろう。だけど、どれにしたって、彼女には引っかかってしまうのだ。
現場で発見された、バラバラにされていた一体のドール。それが、奇妙に、奇怪に、異様に、異常に彼女の意識へ付き纏う。その不可解さが、この事件をひどく奇っ怪なものにしていて、初はどうしてだか心が騒いで落ち着かなかった。
忘れてはならない。無視してはならない。そうしないと、後悔する――そう思えて、ならなかったからだ。
彼女自身にも、理由なんてわからないけれど……。
「かなで……かなでは、今日も可愛いね。こんなに素敵なドールをバラバラにするなんて、どんな神経をしているんだろう……」
ネットでは、藤堂徳の死亡事故にバラバラドール事件という名が付けられていた。黒髪のドールの行方を追う人も、見かけられた。やはり、どの記事もオカルト要素満載の内容だった。
しかし、初もネット界隈も、特に進展のないまま時間だけが過ぎていった。
その中で、警察が藤堂の死を事故として処理したことが、夕方のニュースでさらりと報道された。
「あれが、事故……」
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