バラバラドール

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 沖田家とも揉めていない藤堂が、別の人間から恨まれていたような痕跡も、遺書もなく、防犯カメラには足をもつれさせて不自然に転落する様子が映っていたらしい。諸々の証拠から不運な事故として片付けられたが、バラバラのドールに関しては、一切説明がなされなかった。  しかし、そのことを話題に取り上げたのは一部のネット民だけで、新聞もニュース番組も、それ以上の報道はまったくなかった。  世間は、一切触れなかったのだ。  もちろんだが、この結果に初は納得がいかない。 「本当に、ただの不運な事故だったの……?」  疑念は消えない。晴れることはない。  ただ、ドールが転がっていたという、そういう話ならば、彼女だって納得もできただろう。だが、そうではないのだ。  女の子のドールは、彼女と同じ形と化していた。そこを無視して無理矢理に収束させることは、果たして何を意味するのか。 「また、大人の都合? いつも、大人はそうやって不都合から目を逸らしてばっかり……現実に向き合っていないのは、大人のくせに……」  初は、ぐっと拳を作る。抗う力がない彼女には、なす術がない。ちっぽけな反抗など、一蹴されて終わるだけだ。  そうして、残るのは虚しさだけ。勇気や、自分の意思を表したことに対する敬意など、微塵も存在しない。大人にとって都合の悪い子どもとして、怒られて、惨めな思いをするだけだ。  だから、初は思いだけを持て余す。傷付くのは嫌だ。だけど、このまま流されるのも嫌だった。 「出る杭は打たれるなんて、本当にふざけてる」  彼女の脳裏を(よぎ)るのは、奏の姿。しかし、彼女はもういない。どれだけ頑張ったとしても、誰も初のことを褒めてくれない。 「奏ちゃんのいない世界じゃ、誰もわたしを見てくれない。わかってくれない……」  そんなのは、つらい。  悲しくて、苦しくて、つらい。  胸が痛い。息苦しくて、生きづらい。  その上、唯一の希望である彼女まで汚されてしまうなんて、初には耐えられなかった。口をなくして言い返せない彼女を好き勝手に語るのは、どうしても許せなかった。  だから、沖田奏の尊厳だけは守り抜いてみせるのだと、初は心に誓う。 「誰もやらないなら、わたしがやらなくちゃ。わたしにしか、できないんだから」  わたしにならできるんだからと、初は自身を鼓舞する。たった一人で立ち上がることは、不安でいっぱいだ。上手くできるかわからない上、不可解な状況が起こってしまっている。
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