バラバラドール

22/26
前へ
/115ページ
次へ
 本当ならば、逃げ出したかった。自室に閉じこもって、かなでを抱き締めて、すべてを遮断してしまいたかった。  だけど、そういうわけにはいかない。ここで逃げてしまったら、奏はどうなる。  だから、あっさりと一人消えてしまったくらいで立ち止まってちゃいけないと、初は不安を吹き飛ばすかのように、首を左右に思い切り振った。 「そうだよ。諦めちゃだめ。逃げちゃだめ。……それに、そう……これは、良いことなのかもしれない。神様や、それこそ奏ちゃんが、天国から応援してくれているのかもしれない」  初は、ふいに思い至った考えに、ハッとした。誰にも説明がつけられない、不可解な現象――であれば、それは人間の仕業ではないかもしれない。そう閃いたのだ。 「わたしの決意に賛同して、奏ちゃんが手を貸してくれているのかもしれない。だから、藤堂って人が死んだのは確かに事故だったけど、運命の事故だったんだ。導かれたものだったんだ。あのドールは、そのことを証明しているのかもしれない。そうなると、オカルトな考察も無視はできない。案外、一番的を射ているのかもしれない」  初は、語りながら息を荒げていく。興奮が止まらない。 「そうだ。きっと、そうなんだ! だったら、ちゃんとしなきゃ。こんなところで、燻ってちゃいけないよね。奏ちゃんが、応援してくれている。ドールを通じて、わたしを助けてくれている。あのドールは、奏ちゃんからのメッセージなんだ! わたし宛ての、わたしにしかわからない、特別なメッセージ――」  そこまで言い終えて、初は両頬を自身の手で包み込んだ。紅潮し、熱を帯びている。その表情には、恍惚という言葉が相応しかった。 「どうして、気が付かなかったんだろう。もう少しで見落としていたかもしれないなんて、恐ろしすぎる。……わたしと奏ちゃんは、同じ方向を向いているんだ。わたしの願いは、奏ちゃんの願いでもあるんだ。……叶えなきゃ。奏ちゃんの願いを。二人の願いを。絶対に、わたしが叶えなければ――」  先程までの不安はどこへやら。一切が吹き飛んだ今の初には、怖いものなどなかった。むしろ、頼もしく心強い味方の存在に、やる気が漲っている。 「……ありがとう、奏ちゃん。気付くのが遅くなって、ごめんね」  謝る初の目には、奏が優しく許してくれている姿が浮かんでいた。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加