バラバラドール

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 普段ならば、どこもかしこも同じニュースばかりと文句を垂れている頃合いだが、今回ばかりはさすがの初もそうはいかない。画面の向こうの凄惨な事件に目を奪われて、はくはくと胸が苦しくなるほどに、息を何度も吸っていた。瞬きも忘れて。  何故ならば、画面に映る写真――即死したと伝えられた被害者の女性、藤堂徳(とうどうなる)は、初の知っている人物だったからだ。 「嘘……」  昨日のことのように思い出せる、運命の日。トラックから出てきた時のあの顔を、初は忘れない。愕然と、転がっている奏の体を前に指一本動かせず立ち尽くしていた、運転手。昨日、花束を撒き散らしていた女、その人だったからだ。 「自殺……?」  それは、なんとも痛ましい事件だった。彼女は、猛スピードで走行している特急列車に轢かれたという。  (くだん)の駅は、列車の通過駅。そのホームで、彼女はスピードが乗った車体に、その身を撥ね飛ばされたのだ。  だが、それだけに留まらず、停車するまでの間に、体は再び車体に引きずられた。およそ、人から出ているとは思えないような奇妙な音を辺り一帯に響かせて、無残にも彼女はその体を上下真っ二つに切断された。  飛ばされ、体液を撒き散らしながら転がる下半身。引きずられ続けた上半身は、人間だった形を一切残すことなく、あらゆる中身という中身をぶちまけて、最期を迎えた。  そのあまりにも凄惨な光景は、居合わせた者の心にひどくトラウマを植え付けた。噂では、運転手は発狂してしまっているらしい。何だかよくわからない言葉を、繰り返し呟いているそうだ。  しかし、とんでもなく凄惨とはいえ、どうして彼女の死はここまでマスコミに取り上げられたのか。不幸中の幸いと言えないかもしれないが、他は軽症者が数名で済んでいる。おまけに、ローカル線の小さな駅で起こった人身事故。これだけならば、普通はここまで大騒ぎにならないはずだ。  その疑問に対する答えは、事故の特殊性にあった。女の死に、他殺疑惑が持ち上がっていたためだ。  それもこれも、現場に残された、持ち主不明のとある人形のせいだ。それは、いつのまにかホーム上にあったという。  女が立っていたと思われる場所に転がっていた、女の子のドール。それが、で、のだ。
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