バラバラドール

8/26
前へ
/115ページ
次へ
 悪戯にしては、できすぎている。悪質という言葉が、生温く聞こえてしまうほどだ。状態からして、偶然とは考えにくい。指紋も残されていない。おまけに、防犯カメラのどこにもドールが映っていないのだ。  たまたま、どこにも映らなかったのか。それとも、女が隠し持っていたのか。第三者による、何らかのメッセージなのか。  女は自殺か、事故か、他殺か。  様々な憶測が飛び交い、更に翌日にもなると、話題は沖田奏の事故にさえ飛び火していた。 「彼女は、自殺なのでは? 最近、事故を起こしているようだし」 「被害者は、中学生だったのでしょう? 入学したばっかりなのに、可哀想に……。命を奪ってしまったことを苦にしての自殺ではないかとも、言われているようですねえ」 「でも、飛び込んだ様子ではなかったという証言もあったみたいですね。遺書もなかったようですよ。あの人形の購入履歴も出てこないとか」 「飛び込んだ様子も何も、見ていなかったという人が大半でしょう? 人の挙動を観察している人の方が、珍しいですよ。今時は、皆さんスマホを見ている人ばかりですからねえ。ちらっと見たくらいじゃ、記憶なんて曖昧なものですよ。そもそも、人の記憶力なんて、案外当てになりませんからねえ」  初は、コメンテーターたちの映る画面から目を逸らした。好き勝手言っているとしか思えなかったからだ。それに、あんな人たちに奏のことを可哀想だなんて、言われたくなかった。 「何も、知らないくせに……」  ぼそりと呟いて、初は自室へと閉じこもった。先程テレビに映っていたドールは、現場で発見された人形と同等の物らしい。  初が所持しているかなでと同じような種類の、綺麗な顔をしたドール。どこか、亡くなった彼女に似ていた。 「かなで……」  初は宝物を優しく抱き寄せ、目を閉じた。どうしてだか、こうしているとやはり心が落ち着いた。  彼女の瞼の裏に、先程のドールが浮かぶ。ドールが関与している事件――初は、そっと呟いた。 「もしかして、かなでが奏ちゃんのために、あの女を――って、そんなわけないよね。だって、人形だもんね、かなでは」  あははと笑って、そんなことがあるわけないと、初は(よぎ)った考えを一蹴した。だけど、と思う。 「もしも、そんな奇跡があるのなら、かなでも、わたしと同じ考えだってことだよね。わたしの手伝いをしてくれているんだよね? やっぱり、わたしの味方は、かなでしかいないよ……」
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加