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悪戯にしては、できすぎている。悪質という言葉が、生温く聞こえてしまうほどだ。状態からして、偶然とは考えにくい。指紋も残されていない。おまけに、防犯カメラのどこにもドールが映っていないのだ。
たまたま、どこにも映らなかったのか。それとも、女が隠し持っていたのか。第三者による、何らかのメッセージなのか。
女は自殺か、事故か、他殺か。
様々な憶測が飛び交い、更に翌日にもなると、話題は沖田奏の事故にさえ飛び火していた。
「彼女は、自殺なのでは? 最近、事故を起こしているようだし」
「被害者は、中学生だったのでしょう? 入学したばっかりなのに、可哀想に……。命を奪ってしまったことを苦にしての自殺ではないかとも、言われているようですねえ」
「でも、飛び込んだ様子ではなかったという証言もあったみたいですね。遺書もなかったようですよ。あの人形の購入履歴も出てこないとか」
「飛び込んだ様子も何も、見ていなかったという人が大半でしょう? 人の挙動を観察している人の方が、珍しいですよ。今時は、皆さんスマホを見ている人ばかりですからねえ。ちらっと見たくらいじゃ、記憶なんて曖昧なものですよ。そもそも、人の記憶力なんて、案外当てになりませんからねえ」
初は、コメンテーターたちの映る画面から目を逸らした。好き勝手言っているとしか思えなかったからだ。それに、あんな人たちに奏のことを可哀想だなんて、言われたくなかった。
「何も、知らないくせに……」
ぼそりと呟いて、初は自室へと閉じこもった。先程テレビに映っていたドールは、現場で発見された人形と同等の物らしい。
初が所持しているかなでと同じような種類の、綺麗な顔をしたドール。どこか、亡くなった彼女に似ていた。
「かなで……」
初は宝物を優しく抱き寄せ、目を閉じた。どうしてだか、こうしているとやはり心が落ち着いた。
彼女の瞼の裏に、先程のドールが浮かぶ。ドールが関与している事件――初は、そっと呟いた。
「もしかして、かなでが奏ちゃんのために、あの女を――って、そんなわけないよね。だって、人形だもんね、かなでは」
あははと笑って、そんなことがあるわけないと、初は過った考えを一蹴した。だけど、と思う。
「もしも、そんな奇跡があるのなら、かなでも、わたしと同じ考えだってことだよね。わたしの手伝いをしてくれているんだよね? やっぱり、わたしの味方は、かなでしかいないよ……」
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