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初はそっとかなでを離して、よしよしと頭を撫でる。手入れをしている髪が、ふんわりと柔らかく指を擦り抜けた。
「奏ちゃんと、同じだ……ふふ……奏ちゃんと一緒……奏ちゃんの髪……」
高さ約六十センチのプリンセスドール。ふんわりとした茶髪はロングで、ぱっちりとした大きな瞳。肌は白く、すらりと長い手脚。可愛らしくも凜々しい表情が、これまた奏にそっくりだ。
球体関節で動かせるかなでには、フリル付きの黒いシックなドレスを着せていた。花柄がとてもよく似合っていて、本物の奏が着ていたら、さぞ映えていただろう。
「ドレス姿なんて、見たことないけど……」
初の中の彼女のイメージにぴったりで、ドレスも彼女が一目惚れしたものだ。生前からかなでを持っていたが、ついぞ沖田奏本人に言うことはなかった。
「見せたかったな……そっくりでしょ? って。きっと驚いてくれたのに、残念だな……」
ふうと、初の口から溜息が零れた。こればかりは、今更どうしようもないので諦めた。
それよりも初にとっての問題は、行動を起こす前に、ターゲットが一人消えてしまったことだ。
自殺か、事故か、他殺か――
事故だった場合、あのドールの説明がつかなくなる。遺体と状態が酷似しているなんて、素人の初でもわかる。偶然という言葉で済ませるには、無理があるということに。
「もっと、何か情報が出ていないかな……」
新聞やテレビじゃだめだと、初は判断した。規制がかかっているのか、どこも似たような情報しか開示していない。
「となると……」
新聞やテレビ、ラジオ――そういったもの以外で情報を得るには、どうすればいいか。
考えた末に、初が辿り着いたのは――
「これは……?」
それは、家のパソコンを使って調べることだった。彼女がネットの海を泳ぐこと、五分。初の目に、とある言葉が飛び込んできた。
「もう一体の、ドール?」
例の現場となった駅では、事件が起こる数分前に、バラバラになっていたドールとは別のドールが目撃されていたと書かれていたのだ。
それは、日本人形のように切り揃えられた前髪で、ストレートの長い黒髪だったそうだ。学生服を身につけた女の子のドールは、誰かの落とし物かと見かけた人は思ったそうだ。だが、どこか不気味で陰鬱な印象を抱いたため、触ることは躊躇われたという。
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