これが本当に最後だ

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これが本当に最後だ

 たったひとり宇宙に取り残されたカンナ。地球を足下に見下ろす。両親の顔、卓司の顔、友人たちの顔が浮かぶ。みな、カンナが宇宙飛行士に選ばれたことを喜び、祝福してくれた人々だ。  地上では今ごろ、事故の知らせを受けているだろう。カンナはそう推測すると、申し訳なさに胸が満たされる。もう二度とみんなに会えないのではないかという恐怖、身を引き裂かれそうな絶望も。  それでも、自分を保つためにカンナは首を振る。ごわごわとした宇宙服を着ているせいで、うまく首を振ることはできないが、それでも自分に迫り来る恐怖や絶望を振り払おうと。  まだチャンスは残されている。宇宙に行くチャンスをつかみ取ったんだから、地球に帰るチャンスをつかみ取ることなど簡単だ。なぜなら、そこは私が帰る場所だから……。  そんなふうに、絶望に押し潰されそうになりながら、なんとか自分を保ち続けてきたカンナに、やがてふたたび宇宙船が近づく。 「……ザッ、ザザー……」  カンナの無線にノイズが入りはじめた。 「船長、聞こえますか?」 「……らはザッ、……ング船長だ。聞こえ……ザッ、ザザー……」  ノイズ混じりのアームストロング船長の声にすでに懐かしさを感じる。それだけ、たったひとりで宇宙空間に取り残されたことに孤独を感じていたのだとカンナは気づく。 「私は無事。ただ、バッテリーと酸素は、残りが一時間と少し」  宇宙船の船体がはっきりと見えてくる。ロボットアームも大きく最大限に伸び切っている。ロボットアームの先端には宇宙服姿の人影も。ロボットアームばかりか、太陽光発電のパネルも、あらゆる観測装置のアンテナも、宇宙船から外へと伸ばせるものはすべて伸ばしている。 「……ザッ、きる限りカンナに近づザッ……、軌道変更を行っザッ……。これが最後のチャンスだ。なんとしてでも、ザザー……」  そんな通信のうちにもみるみる宇宙船が近づいてくる。
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