これが本当に最後だ

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 これが本当に最後だ。カンナは覚悟を決め、できる限りの力で宇宙服のままもがく。水の中を泳ぐように、酸素のない宇宙空間で、そんなことをやっても前に進むのは難しいのはわかってる。でも、少しでも帰還のための努力をしたと思いたいのだ。  最大限に伸ばされたロボットアームの先端にいるフィルが、今度は長い棒のようなものを手にしている。予備のアンテナの部品だ。一度目のチャレンジは手が届かなかった。だから、自分の腕より少しでも宇宙空間に伸ばせるものを、船の中で探しまわったのだろう。 「カンナ。一緒に地球に帰ろう」  フィルの声が届く。フィルの姿も、フィルが伸ばすアンテナもカンナに近づく。 「今だ!」  カンナの伸ばす手がフィルの伸ばすアンテナに触れ、カンナはそのアンテナを力強くつかみ、引き寄せようとする。 「カンナ!」  フィルの叫び声がカンナの耳に響く。カンナは自分の手が何かをつかみ損ね、手の中にあった硬いアンテナが一瞬ですり抜けてゆく感覚を覚える。カンナの頭は真っ白になり、何も考えられない。  フィルの伸ばすアンテナも、フィルも宇宙船もカンナから遠ざかってゆく。宇宙空間にカンナだけを取り残して。 「カンナ! 返事をしてくれ! ごめんよ! 本当にごめんよ!」  フィルが号泣しながらカンナに呼びかける。真っ白になった頭が少しずつクリアになり、カンナは自分の状況を把握しはじめる。 「ううん。フィルのせいじゃない。自分を責めないで」  しかし、フィルの返事は涙に暮れていて、無線越しではもはや何を言っているのかさえも不明だ。いや、無線越しでなくてもわからないだろう。そんな悲痛な泣き叫ぶ声が無線から届く。
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