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愛にも似た誇り
卓司は船外活動のライブストリーミングを流すパソコンの画面を見つめる。アメリカの宇宙航空局の生中継映像だ。夜の十時を過ぎ、さすがに人の少なくなった大学のキャンパスの研究室
卓司はひとり、パソコンの画面に映し出される宇宙服姿のカンナを見守る。自分の婚約者ながら、宇宙まで行ってしかも予定外だった船外活動までこなすとはたいしたものだ。そう感心しながら。
白い宇宙服のカンナは、ヘルメットで顔を覆われている。ヘルメットの前面は濃いサングラスのように宇宙船の白い船体を反射している。だから、カンナの表情までは見えない。
けれども、そこにいるのは紛れもなく卓司の婚約者で、卓司が心から愛するカンナだ。
卓司はパソコンの前で思わずこぶしを力強く握りしめ、心の中でカンナのミッションが成功するよう応援する。
やがて卓司はパソコンの画面を見つめるだけでは足りなくなり、窓の外に広がる夜空を見上げる。はめ殺しの窓の向こうに広がる真っ暗な夜空。
この夜空のどこかでカンナは自分の任務を果たしてる。そう思うと、卓司の胸に誇りにも似たものが浮かぶ。婚約者が宇宙に行った誇り、それは個人的で親密さに満ちた、愛にも似た誇り。
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