ここにいては危険だと

3/3
前へ
/14ページ
次へ
「今すぐに助けるからな!」  しかし、カンナの目の前でロボットアームを伸ばす宇宙船は少しずつ遠ざかってゆく。カンナに向かって伸びるロボットアームも、その長さを伸ばすよりも速く、カンナから遠ざかるだけだ。  ロボットアームの先端にいるフィルはもどかしそうにカンナに腕を伸ばす。その腕までの間には残酷なほどの宇宙空間。 「ごめんよ、カンナ……」  フィルの泣きそうな声が無線越しにカンナの耳に届く。宇宙船もフィルの姿も少しずつ小さくなってゆく。 「落ち着けよ。まだ終わりと決まったわけじゃない。この船は地球の周回軌道に乗ってる。地球をひとまわりして……ザッ、ザッ。……まで、待っていてザッ、ザッ。できるだけ船の軌道を……ザッ、ザッ。だから、希望を捨てザッ、ザッ、ザザー……」  アームストロング船長の無線にノイズが入りはじめた。宇宙船とカンナとの無線の電波が届かなくなるまで離れつつある。  それでもカンナは船長の言葉の断片に希望を持つ。宇宙船は地球を周回している。ならば、地球を一周した宇宙船はふたたび近づく。  カンナは宇宙服の非常用バッテリーと酸素の残り時間を計算する。宇宙船を出るときの点検では満タンだった。だから、バッテリーも酸素もざっと四時間は持つ計算だ。一方、宇宙船は九十分で地球をひとまわりする。だから、チャンスは二回。  冷静にそう計算するカンナだが、宇宙にひとり放り出された孤独のせいで、冷や汗がいくつも流れ、そして手足の震えも止まらないままだ。  卓司……。  カンナは足下で青く輝く地球を眺め、婚約者の姿を思い描く。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加