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かたつむりのようにゆっくりと
宇宙船の扉が開き、中から二人の宇宙飛行士が宇宙空間へとその一歩を踏み出す。まず一人。そしてまたもう一人。船体の外側にある取っ手をしっかりとつかみ、ゆっくりと進む。重力もない慣れない空間、かたつむりのようにゆっくりとしたスピード。
「作業の予定時間は約一時間。作業自体は単純なものだから、作業のあとで宇宙遊泳でもして存分に宇宙を楽しんでくれ」
宇宙船の中から、アームストロング船長が無線で指示を出す。
「了解」
同時に返事する二人の宇宙飛行士は宇宙船の船体に沿って、宇宙空間を慎重に進む。半分ほど進んだところで、カンナのあとに続くフィルの無線がカンナに届く。
「おい、僕たちは今、宇宙空間にいるんだぜ。信じられるか?」
フィルもカンナも宇宙飛行はもちろん、船外活動だって初めてだ。
「私だってすごくワクワクしてる。今すぐにでも宇宙に飛び出したいくらいにね」
宇宙服に身を包んだカンナはゆっくりと先に進みながらこたえる。
「僕だってそうさ。宇宙へ自由に飛んで行きたいくらいだよ」
狭い宇宙船の船内とまったく異なる広大な漆黒の闇に小さく光り輝く無数の星たち。そして、足下にある巨大な青い地球。宇宙と自分を隔てるものは宇宙服ひとつだけ。
カンナは取っ手を握りしめ、自分の目の前に広がる宇宙を眺める。
卓司にも見せてあげたいな。
カンナの脳裏に卓司の姿が浮かぶ。この飛行が終わり、地球へ帰還すれば結婚する約束だ。
「誰よりも応援しているよ。そしていつも空を見上げて、カンナの飛行が無事に進むことを祈ってるから」
飛行前、最後に会ったときに卓司はカンナにそう告げた。カンナの宇宙飛行を誰よりも心から祝福してくれたのは卓司だ。大学で研究して、学生を相手に講義する合間に、いつも空を見上げて応援しているからとも卓司はカンナに告げた。
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