私を待っていたもの―通学路編―

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「おはようございます」  テニス部の2年生が立ち止まって、私に深々と礼をする。真っ黒に日焼けした肌がまぶしい。対する私の肌はというと、8月くらいまでは黒かったが、最近色が落ちてきた。  夏休みが終わって1ヶ月。毎日何かに追われている気がする。この1ヶ月でやることがどっと増えた気がするのは、夏休みが終わって“通常運転”が再開したからだろうか。駅からの長い道のりを歩きながら、私はふうっとため息をついた。 「はい、おはよう。おはよう」   小学生の通学路にもなっているこの道には、毎朝旗を持ったじいさんが立っている。わりに元気のいいじいさんで、時折、通行人たちに声をかけているようだ。今私の前を歩いている子たちは昨日、「部活頑張ってね!青春、青春!」なんて声をかけられて、少し苦笑していた。その元気のいいじいさんの前を通ったとき。私はいつものように「おはようございます」と軽く礼をして挨拶をした。するとそのじいさん。なぜか人差し指をピンと立てて、元気よくこう言った。 「大丈夫。ひとりじゃないよ、頑張ろうね」  ……はあ?  私はそのまま力なく「はあ」とだけ応えて学校へ向かう。  ひとりじゃない?ひとりじゃないって、どういうこと?私って、そんななんか、ボッチに見える?かわいそうな子に見えた?  私はその日の昼休み、屋上から街を眺めていた。すぐ下のグランドでは、元気な男子生徒達がサッカーに興じている。なるほど。周りを歩いている高校生はだいたい友達と2、3人程度のグループを作っている。そのじいさんには、わたしにだけ友達がいないように見えたのだろう。でもねえ、じいさん。私には一応友達はいるのよ。最近あまり会っていないけれど一応彼氏だっているし、まあ、毎日それなりに充実していると思っていた。でも、たった一人で通学路を歩いている。それだけのことで、あんたには私がかわいそうな子に見えたのね。なんだかフツフツと怒りがわき上がってきた。そりゃ、あんたはいいよ。朝から「かわいそうな女子高生」を励まして、今日1日さぞ気持ちよく過ごせるのでしょうね。でもね、そのあんたの一言が引き金になって、死んじゃう子だっているんだからね。本当に、本当に。その言葉がそもそも人を見下してるってどうしてわからないのかしら。何年生きてるのよ。私の人生って、そんなにかわいそうに見えるのかしら。  私はぎゅっとフェンスを握りしめる。そしてまたため息をつき、その場に腰を下ろして、今朝コンビニで買ったパンと缶コーヒーを取り出した。 「うん。やはりコーヒーはブラックに限る」  貴重な昼休みに、嫌なことを考えてしまった。私の自由時間はあと10分。昼休みの後半は、私が事務室に待機することになっている。最近は卒業生がよく来て、進学に必要な書類を出してくれと申し出てくる。だから、あまり生徒の休み時間など関係ないのだけれど。  そうそう、じいさん。私はこの高校の事務職員であってそもそも女子高生では、ない。
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