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挙式のあとに参列者によるフラワーシャワーが待っていた。初夏の晴れわたる空に真っ赤なバラの花びらが舞い上がる。
最前列で待っていたのは私たちの部活仲間だ。「紗弥きれいだよー」と泣いている友人もいれば、「幸せになりやがってコノヤロー」と満面の笑みで綿谷に花びらを投げる者もいる。
淡いピンクのドレスを着た小雪が花かごを手に、後列に並んだ親族に花びらを配っていた。そばで武が見守っている。
無数に舞い上がる花びらを受けながら前に進んだ。花かごを持った小雪にブーケを差し出す。
「幸せになりなさい」
そう言うと小雪は目を丸くした。参列者に投げるはずだったブーケを血のつながらない妹にそっと手渡す。
誰よりも彼女の幸せを望んでいた。彼女がくれた無償の愛が、私の固くなった心をときほぐしてくれたから。
彼女が恋に破れて苦しんでいた時、自分のこと以上に胸が痛んだ。何度武を責めようと思ったかわからない。どうにもならないとわかっていながら、世話を焼かずにいられなかった。
小雪の幸せは、私ではなく、この男に託すしかない。
綿谷が同期生たちに絡まれているすきに武に囁いた。
「次、泣かせたら承知しないわよ」
「おまえの鬼の顔には慣れてる」
よそをむいたまましれっと言ったので、空いている手で彼の腕をつねった。
武の悲鳴に驚いた小雪がこちらを見た。私は姉の顔で花の精のような妹を見守る。武はため息をつきながら、そっと小雪の手を握った。
ふいに耳の奥で『バイ・バイ・ブラックバード』が流れる。この地から旅立ったブラックバードは幸運の青い鳥となって私たちの元に舞い戻る。
綿谷が急に私を抱え上げた。同時にシャボン玉が一斉に空に舞い上がる。
目を丸くすると彼は楽しそうに笑った。こんな演出は知らない。跳ね上がる心音を感じていると部活仲間たちがVサインを送っていた。
私へのサプライズだったのか。「もう!」と綿谷の胸板を叩くと、仲間たちが指笛を吹き鳴らした。
文句を言いながら綿谷にしがみついた。こぼれ落ちそうになる涙を誰にも見られたくなかった。
始まりの鐘が鳴る。明るい未来を祝福するようにシャボン玉は空高く昇っていく。
ハロー、ブルーバード。私はこの人と共に生きていく。
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