意思持つメガネ

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 少々抜けている所もあるけれど、我が(あるじ)ナナコほど真っ直ぐな人はきっといない。  私は、それが非常に誇らしい。 「目がしばしばしないのがメガネの良い所なんだよね」  玄関のドアを開けながら、ナナコがふと呟いた。私にとってそれは初耳の情報だった。  ただ、「しばしば」とは何だ?人間が話す言葉はおおよそ理解しているつもりではいるけれど、知識の範疇から外れたものにも時々遭遇する。  しばしば?それは擬音語なのか?何かの状態を指す言葉なのか?推測するに、コンタクトだと目がしばしばするということなのか?だから私、すなわちメガネの長所になり得るということなのか?  ああ、こんな風に物事を深く考える力はあるのに、話すことはできない。言葉は発せなくてもいい、とついさっき思ったけれど、やはり前言撤回しよう。ナナコに直接聞きたい。確かめたい。 「菜那子、『しばしば』とは何なのだ?」  その時、鍵を持つナナコの手がぴたりと止まった。 【fin.】
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