2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「ねえ、どこ?私のメガネ、どこにいるの?」
本来なら、「いる」ではなく「ある」が正しいはずだ。でもナナコは、まるで私に語りかけるかのように、私のことを日々探している。
おかげでいつの間にか私は、意思を持つようになってしまった。人間と同じように、「考える」ことができるのだ。心があるのだ。メガネという、無機物なのに。
これがもしエスカレートしたら、言葉を発することもできるようになってしまうのだろうか。場合によっては、便利なことではあるのかもしれない。
例えば今のようにナナコが私のことを探している時、こちらから居場所を伝えることができるのだ。必要以上に時間をかけて探す手間は省けるだろう。
けれど私がいきなり喋りだしたら、一体ナナコはどんな反応をするだろう。
部屋の隅で小さな虫一匹がちょっとでも動いたらたちまちぎゃあぎゃあ騒ぐナナコのことだ、メガネが話しかけてきた日には状況が飲み込めずに卒倒してしまうのではないだろうか。
話す能力を仮に手に入れたとしても、それを無闇に使うのはあまり良くないかも知れない。
最初のコメントを投稿しよう!