口火

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口火

「中村くん、アタシ見る影もないでしょう?影どころか髪もないし」 「そんなことはない、君は今でも世界一美しい」 「『今でも』ってのがクッソ嘘臭い!生まれた頃から自分が世界一美しいと知っている女に『世界一美しい』と言ったところでアタシはちっとも嬉しくはないのよ」 「それでも君は美しい」 「ハッ、歯の浮くような嘘っぱちね、いいのよもう、どうせアタシは死ぬんだから、気分が良いでしょう?アタシのこんな末路拝めて」 「気分は悪い、けれど君と話せて嬉しくない筈がない」 「アタシは悪いわ、気分も!具合も!アンタを呼んだのも憂さ晴らしがしたかっただけ、別に寂しかったわけじゃない!」 「嘘だ!美しさと傲慢さと我が儘だけで生きてきた君が、男に不自由しなかった君が僕を呼ぶ訳がない!」 「だったらどうだっていうのよ!寂しいわよ!辛いわよ!アタシこんなになって独りぼっちでこんな辛気臭い汚い天井を見ながら死ぬのよ!寂しくない筈がないじゃない!」 「病院ではお静かに」 通路から看護士の女性が割って入った。 「もう長くないんだから好き放題洗いざらい言わせなさいよクソブス!出てって!」 「遼子!失礼だよ、すみません静かにします」 看護士はそそくさと出て行った。 通路から舌打ちが聞こえた。 ここは醜い世界だ。
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