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キスレクチャーの仕様書
今日は何だか視線が突き刺さる日だった。
昨夜の食堂で敢えて堂々と田中翔太を名指ししたせいもあって、学校中の噂の的なんだろうな。
「何だか、漆原がやる気になったみたいで嬉しい様な、寂しい様な…。」
隣の席の佐藤が口を尖らせて、僕に甘えた口調で言ってくる。おいコラ、可愛い系男子がそんな言い方したら、只々可愛いだけだぞ。僕は心の中でひとりツッコミながら、もっぱらポーカーフェイスだ。
「佐藤がリスト渡して、やれって言ったんじゃないか。僕は面倒なことはサッサと終わらせたいタイプなんだ。
ところで、レクチャーはまさか衆人環視の中でやれとか言わないよね?
でもだからと言って個室だと、佐藤の時みたいに僕が面倒な事になるのはごめんだし…。」
僕が愚痴りながらボソボソ文句を言ってたら、後ろから大きな声が聞こえてきた。
「漆原のキスレクチャー、ちゃんとやったかどうかチェックする人間必要じゃねぇ?
ケンケンなら、田中言いくるめて、してないのにしたとか言わせそうだし。」
随分余計なちゃちゃを入れる奴だなと、声のした方を睨みつけるとそこにはいかにも肉食系の色男がいた。
背が高くてロン毛なのに妙にこなれ感がある。ハッキリ言ってチャラい。
もちろん僕には誰だか分からない。
「誰?」
「うわー酷い。出遅れケンケンが学校来てから何日も経つのに。ていうか、去年も居たでしょうが!
オレそんなに存在感無いのかなぁ、自信無くすわー。」
チャラ男はケラケラ笑いながら、自分は園田タクミだと名乗った。
「ごめん。タクミね。今覚えたから。」
「うわー、その冷たい眼差し結構ゾクゾクしちゃうわ。オレ、美人系より可愛い系がタイプだけど、ケンケンはアリだわ。」
僕はタクミのチャラさが面白くなってしまって、思わず笑いながら言った。
「安心しろ、僕はお前ナシだから。」
タクミはちょっと黙った後、咳払いすると佐藤に言った。
「それで、どこでやるって?佐藤がチェックすんの?」
佐藤が何か言う前に僕は遮って言った。
「僕が自分からやりたくてやってる訳じゃ無いんだから、他のやつに見られながらなんて趣味の悪いことはしないから。
レクチャーはする。僕がやるって言ったんだから。
まぁ、田中をメロメロにしてやるよ。ふふふ。」
あれ、なんか教室が静かになっちゃった。ヤバ、ハズしたっぽいわー。
僕は冷静を装い、真顔を死守したのだった。
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