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キャンプパートナー
「で?ケンケンとしては誰にするわけ?」
トモは猫の様なアーモンド型の目を煌めかせながら僕に聞いてきた。
「…?何の話?」
「…そうきたか。うーん、ここはあまり攻めてもいい事なさそうだから…。
ほら、今度山登り演習あるでしょ。あの時にペア組むの誰に決めたのかな~と思って。
ケンケンなら誰でも選び放題だからねぇ。ふふ。」
トモは悪い顔をすると僕に聞いてきた。
実はもう直ぐこの学校恒例の2学年だけの山登りってのがある。
1年生は海、2年は山、3年は海外と随分学年で違う行事だ。
まぁ海だったら病欠で絶対行かないけど、山は楽しそうだ。
「特に決めてないけど…。そーだな全然知らない奴ってのも気詰まりだから、佐藤か、和也か。あと、タクミとか?」
トモは急に目を輝かせて僕の肩をガッチリ掴んで言った。
「そーだよね!その3人のうちの誰かだよね⁉︎よーし、ケンケン争奪戦考えなきゃ!じゃ、またねー。」
トモはキョトンとする僕を残して、嵐の様に立ち去った。
何かまたロクデモナイ事思いついたみたいだな…。
僕はこれからの事に気が重くなってため息をついてしまった。
僕はそれ以来トモが大人しいので、何だか気が緩んですっかりこの会話を忘れていた。
6月の山登り演習は、1500m級の結構険し目の山に必死に登って、キャンプエリアで2人ひと組になってテントを張り一泊。
それから登頂して下山という、中々面白い様な、ハードな様なプログラムだった。
僕は中学生の頃、山登りの経験があったので案外ハードかもなと思いつつ、先生の話を聞いていた。
皆がもりあがったのは、やっぱりキャンプパートナーを誰にするかという事で、何だか皆がソワソワしていた。
確かに気に入らない奴と一緒になるのは嫌だよなと頷いてると、先生がパートナー決めた者から解散と教室を出て行った。
パートナーか、誰なら男装の脅威にならないかを僕はひとり考え込んでいて、クラスの雰囲気に気づくのが遅れた。
顔をあげると、クラスはいつの間にか静かになっていてなぜか皆がこちらを見ている。
隣の席の佐藤が僕の方を真っ直ぐ見て言った。
「…健斗は、キャンプパートナー誰がいいの?」
「え?くじ引きとかじゃ無いの?好きに選べるわけ?それで決まるの?」
僕はクラスの妙な圧に半笑いで返事をした。
ガタガタと席を立つ音がしたと思ったら僕の前に、佐藤と和也、タクミが並んだ。
「「「一緒に組もう。」」」
お前らハモってどうする。
「…っふ。何かこれって、フィーリングカップルみたいだね。僕ってモテモテ?」
僕は思わず変なテンションになってしまったが、頭の中は高速回転だ。
なんだ、なんだ。こいつらって、皆僕とキスした相手じゃないか…。やばい気がするな。
「えーと、他のクラスの奴でもいいの?」
「…まぁこのクラスは一人多いからそれはアリだと思うけど…。何で?」
「何か、キスした相手じゃ身の危険感じるからさ、安全そうな相手思いついたから。出来ればそいつで。」
「あー丁度良いところに来ちゃった?今、決めるとこなの?」
いつものように煩い奴なんだけど、今はとっても有難い!
「トモっ!僕とキャンプパートナーになって!お願いしますっ!」
僕はクラスの入り口に顔を出したトラブルメーカーに大声で叫んだ。
…あんな顔のトモは中々お目にかかれないだろうってのは皆の話だけどね。
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