僕の妻は変わってるんだ

1/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

僕の妻は変わってるんだ

逃げ場が欲しかったんだと思う。私は。会社の飲み会で会った男の人に優しくされて君は頑張ってるねえと微笑まれてコロッと恋に落ちてしまった。彼の左手人差し指に結婚指輪が光っていることに気がついたのは寝たあとだった。私は後悔したが彼はまた二人きりで会おうと囁いた。 逢い引きを繰り返し、彼の妻の話を何度か聞いた。彼は苦笑しながら「僕の妻は変わってるんだよね。箱入り娘で世間知らず。君とは正反対なんだよ。妻を嫌いなわけじゃないけど、ときどき普通の女の人と話がしたくなるんだ」という。こういうときって妻とは冷めきってるんだーとかなんとか言うもんだと思っていた。しかも私を目の前にして普通の女の人とか言う?でもそういう正直さが好きだ。私を頑張り屋さんだと褒める言葉を信じられるから。 彼の奥さんは変わり者でお嬢様育ち。私は母子家庭で育った。気が弱く体もそんなに強くないお母さんを庇うようにして生きてきた。だからいつも気が張っていた。既婚者である彼の優しい言葉にすがりついてしまうくらいに。 彼との関係が始まって2年ほど経ったある日、自室で1人寛いでいるとスマホが鳴った。知らない番号だった。 「もしもし」 「あ、もしもし。里中さんのお電話で間違いなかったでしょうか」 スマホの向こうから聞こえる女の声。知らない声だった。 「そうですけど。どちら様でしょうか」 「あのう、私、吉田川の妻です」 「え」 吉田川芳樹というのが私の彼の名前だった。一瞬にして血の気が引く。奥さんにバレてしまったのか。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!