ドアの裏

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 なんとなく、石川さんと並んで建物を出る流れになった。たった数時間前、ここに来たときには、こんな展開が待っているとは想像もしなかった。  言葉を交わさないまま、石造りの門を出たところで、 「では、これで」 力なく俺は言った。 「あ、このあとちょっと時間あります?」 「はい?」 さっきとは打って変わって、石川さんが明るい声で提案する。 「ここじゃ、なんですから。タクシー!」 俺の返事を待つことなく、彼女は手を上げて流しのタクシーを拾う。 「え?どこに行くんですか?」 「まあまあ、とにかく乗って」 止まったタクシーのドアが開く。石川さんはさっさと乗り込んで、俺を手招きする。訳が分からないまま俺も乗り込んだ。 「いやあ、お疲れ様でした」 乗り込むと行き先も告げずに話し出す。タクシーの運転手も何も言わず、車は走り出した。 「ちょっと、何なんですか。答えてください」 先ほどの面接から続く想定外の展開に、俺は少しいらだっていた。 「あなた、本当にこの財団で働くつもり?」 石川さんが俺に向き直って言う。相変わらず、明るく、少し楽しそうな口調で。 「いや、働きたくはないですけど、もはや戻れないというか。だいたい、さっきあんたが『内定受けないと消されるよ』みたいなこと言うから、内定受諾書も書いたんですよ」 「まあそうカリカリしないで。とにかく、財団では働きたくないと」 「はい。できるならば」 「じゃあさ、私たちの組織に協力しない」 「はあ?」 また”組織”、”協力”という単語が出てきた。 「財団の言うことを聞くふりして、裏で私たちに協力してくれればいいの。どう?やってみない?」 「あの、全然話についていけないんですけど。あなた誰なんですか?」 「私?とある”組織”の一員よ。この財団に潜入するために4年がかりで工作して、さっきめでたく内定が取れた」 こっちが唖然とするほど、石川さんは簡単に自己紹介した。 「面接会場に、何か追い込まれた学生がいて、これはもっと追い込めばこっち側の組織に使えるなと思って、いま誘っているところ」 また背筋が寒くなってきた。教授の研究室のドア、面接会場のドア、そしてタクシーのドア。開けるたびに、俺の未来がどんどんおかしくなっていく。 「降ります。もうついて行けない。運転手さん!止めて!」 「無理よ。この人も、私たちの組織の一員」 バックミラー越しに、運転手がコクリと頷く。 「俺に、どうしろと?」 恐る恐る石川さんの目を見る。どこかで見たような不気味な笑顔。 「この内定受諾書に書いてくれる?あ、ちなみに選択肢はないからね」 目の前に1枚の紙とボールペンが差し出された。  次にタクシーのドアが開いたとき、俺は立派な"組織"の一員になっていた。
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