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父の料理は、どれを食べても美味しかった。
でもおにぎりと卵焼きのセットは、出たことはなかった。
父はお弁当でさえ、その組み合わせを避けていたように思う。
それは、父のトラウマなのか。
私への配慮なのか。
聞いてはいけない気がしたし、食べたいということさえも気が引けた。
私は、父がおにぎりと卵焼きを恋しく思う日をずっと待っていた。
そのまま何年も、おにぎりと卵焼きのセットを食べずに、憧れだけをつのらせた。
久しぶりに、おにぎりと卵焼きを食べたのは社会人になってからだ。
親元を離れて借りたマンションの部屋に帰ると、テーブルの上にちょこんとそれが乗っていた。
八つ下の半同棲状態の恋人が作ったものだと、すぐに分かった。
合い鍵を持っているのは、父と彼だけだからだ。
相変わらず、父はおにぎりと卵焼きを作りたがらない。
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