物申す小説家犬

2/2
前へ
/78ページ
次へ
 そうだ、今綾乃(あやの)は何してるのかなぁ。  そぅ、綾乃は俺の彼女だ。付き合いだして半年を迎えようという所。お互いまだまだ知らないところがあり、初々しさも残るバカップルだ。  密閉空間に二人だけの時間が音楽と共に流れる。  俺は綾乃の笑った顔を横目で盗み見た。  その嫌みの無い笑顔は俺の目を離さない。  その視線に気付いたのだろうか、綾乃は俺をチラッと見ると顔を背けた。 「恥ずかしいからそんなに見ないでよ」  綾乃は俯きながらそう言った。  好きな子に見るなと言われたら余計に見たくなるのが男の心情だ。  俺はハンドルから手を離し、そっぽを向いた綾乃の頬に手を這わせた。火照った顔はきっと赤くなって恥ずかしがっているに違いない。  そんなことを感じ取ると何故だか無性に愛おしく感じ、居ても経ってもいられなくなった。  俺は綾乃の肩まで伸びた髪に手を潜らせながら頭を引き寄せた。そして親指で魔法を掛ける。  潤んだ唇をそっと撫でると少しだけ開いた。その隙間を俺の唇で塞ぎたい。  あと少し、綾乃とゼロ距離になる。  あぁ、綾乃に会いたくなってきた。 「綾ちゃん、今なにしてるの? 今から会いたい、いいよね?」 「今から? じゃぁ仕事終わったらね」 「やったぁ、綾ちゃんの部屋で待ってるね」 「まてまてまて、それはダメだよ。待ち伏せになっちゃうよ」 「ダメなの? ねえ綾ちゃんダメなの?」 「ダメです。裕太(ゆうた)は私が仕事終わるまで待ってなさい。どうせ自分の部屋で昼寝してたんでしょ?」 「違うよぉ、でも早く会いたいから綾ちゃんの部屋で」 「ダメです!」 「わかった。自分の部屋で待ってる」  俺は綾乃が大好きなだけなのに。いつも一緒にいたいし、心配なだけなのに。  そんな俺のことをみんなは、犬系男子と言う。  
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加