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告白
「あっ」
綾乃は俺を見ると何かに足が引っかかったように止まった。
今日は例の書籍化の件で出版社へ来ていた。広いロビーで担当者と待ち合わせをしている。
今日の俺は紺のスーツにネクタイ。いつものスパイラルパーマに茶髪を抑えて焦茶色に変えた。
隣には賢斗もいる。俺に合わせてスーツを着てきてくれた。
緊張しながら待っていると、横から声を掛けられる。
「すみません、お待たせしました。ピーマニュウさんですか? 私、編集部の」
俺は立ち上がって一礼した。その姿を見て驚いたのは綾乃だった。
「あっ」
「ピーマニュウです。よろしくお願いします」
綾乃は俺の姿を確認すると中途半端に名刺を出したまま動かなかった。
俺がピーマニュウだと今、知ったからだ。
そして隣にいたのは編集長。軽く挨拶をして名刺をもらった。
「綾乃君、早く名刺を渡さないと」
「はい、すみません」
挨拶だけ済ますと別室で話をすることになった。
小会議室に入ってテーブルを囲むように座る。
俺は斜向かいに座る綾乃を見ることが出来ない。
何故なら昨日の別れ話の後、かなり泣いたんだろうなと思うほど目が赤く腫れていて、声も枯れていて、きっと泣き叫んだんだろうなと思わずにはいられない様相をしていたからだ。
話の内容が耳に入ってこない。
頷くだけで精一杯だ。
不意を突いて編集長に質問された。
「ピーマニュウさんはなんてお呼びしたらいいかな?」
「は? はぃ、裕太でいいです」
「裕太君ね。じゃぁ、裕太はこの小説の内容に関してノンフィクションの場面はあるかな? もしあるとしたら後々の事もあるから変更する場合もあるけど」
「それは無いです、大丈夫です」
思わず綾乃を見てしまった。登場人物が同じ名前だったから指摘されると思った。
「そうか、多少の編集はあるかも知れないけど、じゃぁ書籍化に同意って事で進めさせてもらおう。それでいいかな?」
「はい」
「綾乃君、ちょっと書類を取ってくるから話を進めておいてくれるかな? それでは裕太、よろしくお願いします」
「はい」
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