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「俺は彼女を捨てたわけじゃない。
今日から本当の俺を見て欲しい。
今の俺だけを見て欲しい。
もし、別れを切り出した事を根に持っているなら死ぬまで恨んでも良い。
老犬を引きずりながら公園を散歩して、あの時別れようって言ったのはアナタの方ですよねぇ、って杖で俺を突きながら責めくれれば良い。
俺が憎いと思ったら首を絞めて苦しめてくれても良い。
寝ている間に殺さないで欲しい。殺すなら俺が起きている間にしてくれ。最後の最後までお前の顔を見ていたいから。
きっと俺の方が先に死ぬと思う。裕太なんか大嫌いって死ぬまで言っても良い。だけどお前の手を握って死ねるなら俺は世界一幸せな男だから。
だから、ジジィとババァになっても俺を責めてくれれば良い。
俺が大学を卒業したら、老舗和菓子屋の女将になってもらえませんか?」
俺はそう言って机に頭を打ち付けた。
それを見た賢斗も机に頭を打ち付けてた。
「はい」
綾乃は涙声でそう答えてくれた。
俺と賢斗は勢い良く立ち上がると椅子を倒して飛び跳ねた。そして嬉しすぎて思わず抱き合った。
「裕太おめでとう。でも抱き合う人を間違えてないか?」
「そうね」
しょんぼりして椅子を直して座った。
そんなタイミングで編集長が入ってくる。
「話は終わったようだね」
編集長は椅子に座ると話し始めた。
「この会議室には監視カメラがあってね。書籍化にあたり、裕太には悪いと思ったんだが人間性を見させてもらったよ」
「え?」
俺と賢斗はキョロキョロしてカメラを探した。
「あった」
賢斗はカメラを見つけると指を指す。
「じゃぁさっきの話、聞かれてたんですか?」
「ごめんね、聞いてたよ。人間は見えないところで素性がでるからね、これ心理学」
「あぁ、そう、ですね」
一本取られた。俺等も心理学専攻なのに。
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