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「本を出すって大変なことなんだよ。
小説の内容も大事だけど先ずは身辺調査ね。一つでも問題があればそれが命取りになる場合もある。
次に社交性ね。社交性が無いくらいならまだ良いんだけど、それがあり過ぎて誰にでもフレンドリーなのは困るかな。中には大物作家もいるし、うちの出版社を御贔屓してくれてる作家もいる。そんな集まりの授賞式に爆弾投下されたら困るわけ」
「はぁ、そうなんですね。それ分かります」
「あと身内から受賞者は出さない、これ鉄則ね。素晴らしい作品があったなら、それは応募者と関係を持たない選考員に評価させる。そこは選考員のセンスが光る所だけども、やっぱり選考員も人間だからね、個性があるよ。
うちはそうやって平等性を持たせてるから。
そして、ルールを破った選考員は二度とおなじ席には戻ってこれない。当然だよね」
「はい、そうですね」
俺の立場も綾乃の立場も危うくなってきた。そして汗が止まらない。
「裕太は綾乃君とお付き合いをしていたんだね?」
「はい」
「知り合いだったってことだね?」
「はい」
もう何を言われてもはいしか言えない。受賞も無かったことになりそうだ。
俺は絶望を目の前に、目を瞑って俯いた。
「正直に答えてくれてありがとう。
受賞おめでとう。大物作家になってくれ。続編も待ってるよ」
「はい。えっ? はっ? 今なんて?」
「おめでとう、だよ」
「えっ? あっ、ありがとうございます」
綾乃に目をやると、嬉しさと可笑しさで涙ぐみながら笑っていた。
「後は綾乃君から細かい説明を受けてください。ではまた。授賞式で会いましょう」
編集長はそれだけサラッと言うと退室していった。
「はっ? これで良い感じ?」
そう言って賢斗を見ると、親指を立てて喜んでいた。
「裕太、どっちも万事オッケーじゃん!」
「そう、ね?」
「裕太がピーマニュウを隠していたのが良かったんだよ。だから知り合いでもセーフだって事だったんだよ。ねぇ綾乃ちゃん?」
「そうだね。編集長には感謝しなきゃね」
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