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本当の自分
俺の書いた小説が書籍化されて世に出ることが出来た。身辺調査も問題は無く、心配していた事は何一つ問題にはならなかった。
それに名前は実名ではないし、作者P-ma゚new.(ピーマニュウ)はただの飾りだから何ら問題にはならなかった。
おそらく小説を読んでいる読者は、ピーマニュウがどんな人間でどんな性格なのかは分かってはいない。と言うより、そんなこと知らなくても、読むに当たってこれと言って問題は無いだろう。
文章的には男性なんだろうが、もしかしたら女性の可能性もある。と考えたら、文字書きの世界って空想の塊なんだなと思ってしまう。
そしてそんな世界で俺は生きている。
俺は発売された小説を買わなかった。出版社からもらうこともしなかった。理由は、なんとなくだけど、一発屋で終わりたくないからだ。
目の前に書籍化された自分の小説があってそれを見てニヤけていたくない。
この小説を上回る作品を書きたい、と自分
の首を絞めたくない。
その栄光にすがりつきたくない。
ここで終わればただの一発屋。
何冊出しても飛ばなければただの一発屋。
本業は学生だからね、と自分から仕掛けた話をはぐらかせてみる。
「なぁ裕太」
「あ?」
「何だよその、あ? って」
「返事したからいいじゃん」
「そう言う問題じゃないだろ」
「じゃぁ何だよ」
「オレさぁ、実家継ぐことになったんだよね」
「おぉ、俺と同じじゃん」
「兄貴が跡継ぎ放棄したんだよ。結婚して婿入りするんだとさ。とは言っても老舗旅館はキツいよな」
「まぁ、お互い老舗呪縛に縛られる運命だったんだよ。うちも賢斗の旅館に商品卸してるし、俺達結局腐れ縁だな」
「それな」
こんな俺達は就職先が決まっていたため、就活やセミナーなんかは全くもって関係なかった。だから慌ただしく動き回る学生を見て、同情の感しかなかった。
何のために大学へ通っているのか不思議でたまらない。
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