新しい何か

2/13
前へ
/78ページ
次へ
 秋空は澄んだ空気を循環させながら、宇宙まで届きそうな空色を俺に見せてきた。 「見上げるとそこは天国に近い場所。  俺はその空に吸い寄せられるように」 「裕太! 早く!」  現実逃避していた俺を現世に呼び返したのは綾乃の声だった。  ため息をついてやりたい所だったが、息切れが激しくて常にため息をしているような状態が続く。俺、本気で嫌なんですけど。 「だから綾乃、待てよ」 「早く!」  綾乃は一旦引き返して、俺の手を引いて再び上り始めた。 「もぉ、おじいちゃんじゃないんだから頑張って」  息切れもするがその前に足がもつれる。 「綾乃、俺のことはいいからお前だけでも行くんだ! 早く!」 「バカは程々に。映画の主人公みたいなことして何を楽しんでるのよ」 「バカとな?!」  綾乃に引っ張られて文句を言いながら上る。  もう地面しか見えない、葡萄なんてどうでも良い、だからお願いだから家に返してくれ。  そんな事をブツブツ言いながら登り切ると、ふと綾乃の足が止まる。俺は疲れきって足が止まる。  その先の眼下に広る景色を見て綾乃が歓喜の声を上げる。 「うわぁ、すごーい!」 「そうね。でもこんな所まで上らなくても良かったんじゃないのか? もっと近い場所もあったはずだよ?」 「気持ちぃー! 裕太見てよこの景色! 頑張った甲斐があったね!」  そんなに喜ばれても、俺は疲れすぎて景色を眺めるほどの余裕がない。  どうやら俺の意見はこの景色にかき消されてしまっていた。 「そうだね」  と、言う返しが無難だろう。  二人でその景色を眺めていると後から畑のオーナーに呼ばれた。  振り向くとそこには笠をかぶった大粒の巨峰がぶら下がっていた。 「おー!」  綾乃と二人でハモる。 「お店に並んでるのより大きいよ!」 「そうだね、作り物みたいだなぁ」 「裕太!」  その一言が多いと怒られる。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加