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秋空は澄んだ空気を循環させながら、宇宙まで届きそうな空色を俺に見せてきた。
「見上げるとそこは天国に近い場所。
俺はその空に吸い寄せられるように」
「裕太! 早く!」
現実逃避していた俺を現世に呼び返したのは綾乃の声だった。
ため息をついてやりたい所だったが、息切れが激しくて常にため息をしているような状態が続く。俺、本気で嫌なんですけど。
「だから綾乃、待てよ」
「早く!」
綾乃は一旦引き返して、俺の手を引いて再び上り始めた。
「もぉ、おじいちゃんじゃないんだから頑張って」
息切れもするがその前に足がもつれる。
「綾乃、俺のことはいいからお前だけでも行くんだ! 早く!」
「バカは程々に。映画の主人公みたいなことして何を楽しんでるのよ」
「バカとな?!」
綾乃に引っ張られて文句を言いながら上る。
もう地面しか見えない、葡萄なんてどうでも良い、だからお願いだから家に返してくれ。
そんな事をブツブツ言いながら登り切ると、ふと綾乃の足が止まる。俺は疲れきって足が止まる。
その先の眼下に広る景色を見て綾乃が歓喜の声を上げる。
「うわぁ、すごーい!」
「そうね。でもこんな所まで上らなくても良かったんじゃないのか? もっと近い場所もあったはずだよ?」
「気持ちぃー! 裕太見てよこの景色! 頑張った甲斐があったね!」
そんなに喜ばれても、俺は疲れすぎて景色を眺めるほどの余裕がない。
どうやら俺の意見はこの景色にかき消されてしまっていた。
「そうだね」
と、言う返しが無難だろう。
二人でその景色を眺めていると後から畑のオーナーに呼ばれた。
振り向くとそこには笠をかぶった大粒の巨峰がぶら下がっていた。
「おー!」
綾乃と二人でハモる。
「お店に並んでるのより大きいよ!」
「そうだね、作り物みたいだなぁ」
「裕太!」
その一言が多いと怒られる。
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