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やはり本物なだけあってグレードが高く見ていて飽きない。こんな立派な巨峰は初めて見た。
どうやらこの巨峰は味はともかく品評会用の品物だと言う。
「だからこんなに高い場所で人気の無い所で作ってるんだね」
「葡萄ってさぁ、綾乃の唇みたいだな」
「へ? 何それ」
「プルプルで吸い付きたくなる」
「やだぁ、何言ってるのよ」
「良かったな、桃って言われなくて。毛だらけだ」
かなりの強さで背中を叩かれた。
思った以上に痛くて動けない俺。
「裕太はその一言が多いのよ。バカ」
「バカとな?!」
この農園のオーナーは毎回こんな坂道を歩いているのかと思うと感心しかない。
で、気になって聞いてみた。
「普段は車です」
「あぁ、そうですよね」
ならば俺達も車で移動させてくれれば良かったのに。何故、今日に限って徒歩なんだよ。一気に疲れが出た。
「登山と一緒ですよ、この景色は最高なんで。葡萄狩りしながら景色と共存出来るって感動が売りなんです」
「そうなんですね、ハハハ」
今の俺には売りは要らなかった。
登山と聞いていたなら絶対に踏み込まないエリアだったのに。
やっぱり下調べは必要だなと思った。
大きな房を一つずつ収穫する。
「そうだ、賢斗にも持って帰ってやるか」
それを聞いた綾乃が頃合いの良い奴を収穫する。
「賢斗君食べるかなぁ」
「お土産だから良いんじゃないか? 買ってきてって頼まれたわけじゃないから。
それにこんな凄い葡萄ならきっと喜ぶよ」
俺は葡萄の表面を指でそっと擦ると、そこにキスをした。
「綾乃の唇と同じだ」
赤い顔で俺を見上げる綾乃は乙女だった。
俺は綾乃の唇から目が離せない。じっと見ていると何故だか吸い寄せられるような気がして。ゆっくり顔を近づけた。そして綾乃は目を瞑る。
その唇に葡萄を当てた。
「もぉ! 裕太!」
照れ隠しで怒った顔がたまらなく可愛かった。
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