新しい何か

3/13
前へ
/78ページ
次へ
 やはり本物なだけあってグレードが高く見ていて飽きない。こんな立派な巨峰は初めて見た。  どうやらこの巨峰は味はともかく品評会用の品物だと言う。 「だからこんなに高い場所で人気(ひとけ)の無い所で作ってるんだね」 「葡萄ってさぁ、綾乃の唇みたいだな」 「へ? 何それ」 「プルプルで吸い付きたくなる」 「やだぁ、何言ってるのよ」 「良かったな、桃って言われなくて。毛だらけだ」  かなりの強さで背中を叩かれた。  思った以上に痛くて動けない俺。 「裕太はその一言が多いのよ。バカ」 「バカとな?!」  この農園のオーナーは毎回こんな坂道を歩いているのかと思うと感心しかない。  で、気になって聞いてみた。 「普段は車です」 「あぁ、そうですよね」  ならば俺達も車で移動させてくれれば良かったのに。何故、今日に限って徒歩なんだよ。一気に疲れが出た。 「登山と一緒ですよ、この景色は最高なんで。葡萄狩りしながら景色と共存出来るって感動が売りなんです」 「そうなんですね、ハハハ」  今の俺には売りは要らなかった。  登山と聞いていたなら絶対に踏み込まないエリアだったのに。  やっぱり下調べは必要だなと思った。  大きな房を一つずつ収穫する。 「そうだ、賢斗にも持って帰ってやるか」  それを聞いた綾乃が頃合いの良い奴を収穫する。 「賢斗君食べるかなぁ」 「お土産だから良いんじゃないか? 買ってきてって頼まれたわけじゃないから。  それにこんな凄い葡萄ならきっと喜ぶよ」  俺は葡萄の表面を指でそっと擦ると、そこにキスをした。 「綾乃の唇と同じだ」  赤い顔で俺を見上げる綾乃は乙女だった。  俺は綾乃の唇から目が離せない。じっと見ていると何故だか吸い寄せられるような気がして。ゆっくり顔を近づけた。そして綾乃は目を瞑る。  その唇に葡萄を当てた。 「もぉ! 裕太!」  照れ隠しで怒った顔がたまらなく可愛かった。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加