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しばらく畑を回ってから、俺達はその絶景をバックに写真を一緒に撮った。それを見て綾乃はしみじみと言った。
「なんか裕太じゃないみたい」
今の俺は前みたいに甘えないし笑わない。常に綾乃の体を求めたりもしない。綾乃からしてみたらそのギャップに違和感があるようだ。
「この先も、俺についてこられるか?」
「よく分からない。甘えん坊の裕太しか知らないから」
「そっか。じゃぁ、俺が綾乃を引っ張っていくからちゃんと着いて来いよ」
「わかった」
「甘えん坊の裕太かぁ。まぁ、これからだよ。そのうち綾乃だって本当の性格が出てくるかもよ。俺は毎日怒られてるかも知れない。
アナタ! 靴下は洗濯カゴには入れなさいっていつも言ってるでしょ! とか。
裕太! 子供と一緒に遊んでばかりで、アナタが長男みたいじゃない! とか。
裕太! もっと私の事を愛しなさいよ! とか」
「えっ、裕太それ本気で言ってる?」
「知らんけど」
「知らんのかよ」
「おっ、それ良い返しだねぇ。嫌いじゃないよ」
「私達、良いコンビになれそう?」
「そうだね。なれそうじゃなくて、なるんだよ」
俺は綾乃の頭を撫でるとそのまま引き寄せて髪をモシャモシャした。
高い所まで上った後の帰りは特別早い。
今度は俺が先頭で綾乃を連れて下る。
「待って待って、速く歩くと危ないから」
俺の後で背中に捕まりながらヨチヨチと歩く。
その慎重さが面白くて思わず笑ってしまった。
「何で笑うのよ!」
「いや、別に。フフフ」
「だから!」
「可愛いなぁと思って」
少し歩くスピードを上げると、綾乃はアヒルみたいにチョコチョコとついてきた。
「ブフフッ、何それ」
「だから危ないからゆっくり歩いて!」
俺は綾乃を置いて坂の下で待った。
「歩き方不細工で笑える、なんだよそれ」
「え? 何? なんて言ったの?」
綾乃は下るのが必死で、俺の悪口は聞こえていないようだ。
近くまで来ると両手を広げてやった。
綾乃は迷わず俺の胸に飛び込んできた。
「到着!」
「綾乃、お帰り」
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