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俺は綾乃の捜索に向かう。と言っても鍵の直ぐ手前で壁にへばり付いていたから直ぐにわかった。
「裕太、なんで付いてきてくれなかったのよ」
「綾乃が先に入っていたんだろ? 探検家かと思ったよ」
俺は綾乃の後に付くと左手で壁を触りながら進む。この辺りだろうと言うところで綾乃の手を掴んで一緒に鍵に触った。
「あった! あったよ鍵!」
「綾乃、声がデカいから、小学生かよ」
「あっ、ごめん」
外に出て出店で巨峰のソフトクリームを食べながら車に乗り込んだ。
「これも巨峰だね」
「ここは葡萄が特産だからね」
「裕太はこのお寺の事、よく知ってたね」
「小さい頃に何年か住んでた事があったから」
「そうなの? それは初耳」
「母親の実家がここら辺なんだよね。離婚するつもりで実家に帰ったらしいんだけど、親父が五年くらい自由にさせてくれたみたい。で、和菓子屋に戻って今も女将をしてるってわけ。
そんな夫婦の空白があったから俺は一人っ子なんだよ」
「へぇ、そうだったんだね。何でお母さんは離婚するつもりだったの?」
「婆ちゃんの嫁いびりなんだと思う。でも祖父母はいないし平和な和菓子屋だよ」
「私が入ったら嫁いびりとかあるのかな」
「フフッ」
「何で笑うのよ」
「嫁いびりされて嫌な思いをした人が嫁いびりするわけないじゃん。綾乃なら大歓迎してくれるよ。
あっ、でも可愛いからヤキモチ焼くかも知れないな」
「それは嬉しいんだか悲しいんだか」
日も暮れ始め、澄んだ空気の盆地の空には星が光り始める。
トンネルを抜けると山の上にホテルが見えた。
「今日のホテルはあそこだよ」
「あんなに高い所にあるんだね。大丈夫?」
「え? 何が?」
脇道を入りクネクネと細い道を上る。右に左に更に上る。車はうなりながら頑張って上る。
「今日は乗る車を間違えたようだ。五ナンバーじゃなくてミドルSUVにしとけば良かった」
「裕太、車が他にもあるの?」
「これは親父の車。学生の間は金が掛かるから交換してもらってる」
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