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「ふん」
「何だよ、ふんって」
「裕太の事知らなすぎるなぁって思って。私は何も知らない。知ってるつもりでいたんだなぁって。なんだかバカみたい」
「そう」
「賢斗君の方がもっと色々知ってるんじゃ無いかって思うと妬けてくるな」
「そう」
「幼馴染みには勝てないのかな。自信が無くなってきた」
「そうなんだ」
「裕太、なんかサラッとしてるんだね」
「そう? 人の気持ちを変えるほど、俺は力は無いよ?」
「そこはさぁ、そんなこと無いよ、とか言ってくれるのかと思った」
一旦坂を登り切ると駐車場に車を止めた。俺は綾乃に目を瞑らせて車から降ろすと、手すりの縁まで連れて行った。
綾乃の後から目隠しをして右を向かせてから手を離す。
「あの山の上にあるのが今日のホテル」
「まだ先なんだね?」
「そう。で、これが今日俺が見せたかったもの」
今度は正面を向かせた。盆地が一望できるその高台は、昼間に見た町並みよりも遙かに綺麗だった。
ビルの明かりも、鉄塔の赤い点滅も、街頭の光も。その中を電車から漏れる明かりが一列になって動いている。
「きれい」
俺は綾乃を後からそっと抱きしめた。頬と頬をくっつける。
「裕太暖かい」
「これから沢山知っていけばいい。俺は変わることはないから」
綾乃は頷いた。
俺はしばらく夜景と綾乃を堪能することにした。
「ホテルまではまだ少し上らなければならないので、一息ついたら出発しよう」
「うん」
「俺マジで失敗した。今日は車を間違えた。失敗だ」
「ゆっくり行こう。止まったら裕太が押してね、私がハンドル持つから」
「この先も凄い登り坂だよ? どう考えても後退して俺がペチャンコになる運命だよね」
「さぁ、それはどうでしょうねぇ」
「あのホテルにしたのが間違いだったのか、車の選択を間違えたのか。俺からしたらどちらもドボンだ」
綾乃を抱きしめる手から力が抜けた。
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