自由な彼女

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 徹夜明けで帰ってきた僕は、ベッドに倒れ込むと泥のように眠っていた。僕が担当するプロジェクトも佳境を極め、最近は朝帰りか会社に泊まることばかりだった。週末に差し掛かり今日は爆睡しよう、そう決めいてたはずだった。そう、決めていたはずだった。  しかし、僕の眠りを妨げるかのように何かが鳴り響いた。僕の頭がそれを無視しようと相当に努力をしてくれたはずだったが、遂に根負けして僕は意識を取り戻すことになった。  音の原因はスマホだった。誰かからの着信が延々と続いているらしい。  僕は左腕で床に落ちているらしいスマホを探した。何度か床をなぞった末に固い感触が指先に触れる。それを拾い、画面を見る。歪んだ視界の向こうに見えたのは彼女の名前だった。 「はい……」 『七回目だよ?』 「は?」  何のことだろう。 『七回かけたらやっと出てくれた。何してたの? 浮気とか?』 「……いや寝てた」 『寝てたぁ!? 十一時だよ?』  寝始めたのが八時半なんだけど、とは言わなかった。 「それで……なに……?」 『お買い物したいからさ、来てよ。顔洗って着替えたらすぐに。場所とかLINEしとく』  一方的に言うと彼女は電話を切った。  もう一度、夢の世界に戻りたかったがそうすると後が怖いので、僕は睡魔の誘惑を振り払って、洗面所に向かった。どんなバグよりも、どんな仕様考慮漏れよりも、どんな人間トラブルよりも、彼女の怒りが怖い。
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