あまりに素敵な人なので

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 駅前の広場に到着した私は、スマートフォンのインカメラを利用して、密かに最終確認を行う。  ──うん、大丈夫。メイクは崩れていないし、髪も乱れていないし、いい感じ。  今日、私はこの場所で、初対面の相手と顔を合わせる事となっているのだ。マッチングアプリで知り合った男性で、「タクヤ」と名乗っていた。  ──今回は、どうだろう。好みのタイプだったらいいのだけれど。  アプリを介して男性と出会うのは、実は今回で4回目だ。けれどもこれまで会った人は、総じて駄目だった。タイプではないというか、生理的に受け付けないというか、理由は挙げ難いがとにかく駄目だったのだ。  そろそろ大人の女性らしく、堅実な相手と、落ち着いたお付き合いがしたい。そんな思いから始めたマッチングアプリだったが、なかなか順調にはいかないものだ。私の理想が高すぎるのだろうか。  そんなことを考えていると、気付けば、腕時計の針は待ち合わせ時刻の1分前を指していた。そろそろ、相手も到着するはずだ。もしかすると、もうすでにこの場所に居るのかもしれない。そう思い辺りを見渡すと、丁度、広場中央の噴水の側に、二人の男性の姿を捉えた。一人は、すらっとした細身の端正な顔をした男性、もう一人は、中肉中背であまり冴えない顔立ちをした男性だった。二人とも、誰かを待っている様子だ。私の待ち合わせ相手は、この二人のうちのどちらかなのだろうか。できれば、前者だと良いのだけれど。事前に顔写真は貰っていたものの、あれだけでは、どちらか判別がつかない。最近は、男性でも良く見えるように加工している場合が少なくはない。正直なところ、写真などあてにならないのだ。  とりあえず、私は代わる代わる二人に、チラチラと視線を送り続ける。すると、こちらの視線に気付き、歩み寄って来たのは、細身の方の男性だった。私は、内心でガッツポーズをする。 「あ、あの。もしかして、ナオさん、ですか?」  男性は、形の良い眉を八の字にして、不安げに私にそう尋ねてきた。「ナオ」というのは、アプリ上で私が名乗っている名前だ。 「はい、そうですよ」  答えると、男性の表情が一変する。ぱあっと輝く笑顔に、私は顔中に熱を帯びた心地がした。 「本当、ですか!ああ、良かった。良かったなぁ。ああ、嬉しい、嬉しいです」
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