あまりに素敵な人なので

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 手を振りほどき、扉の方に駆け出した。置いていたバッグを足にひっかけ、中のものが散乱する。よろめきながらも、扉を目指した。  しかし、あと一歩のところで彼が後ろから覆い被さってくる。重みを受け、私はうつ伏せに倒れ込んだ。彼はそのまま、容赦なくのしかかり、私の首にその両手をかけた。 「──どうして、どうして逃げようとするんですか⁉︎一緒に死んでくれるって、言ってくれたじゃないですか!貴女も、僕をからかっていたんですか⁉︎ねぇ、ナオさん!どうして!」 「違う、違うのッ!私はナオさんなんかじゃないの!許してッ、離してェッ……ェッ……」 彼の結婚指輪が、首筋に食い込む。次第に、首全体がぎりぎりと締め付けられて行く。  ──苦しい、苦しい、助けて誰か──  どうにか助けを呼ぼうと、前方に転がるスマートフォンに、必死に手を伸ばす。しかし震える指先は、虚空を虚しく掻いただけだった。  その時、新しく入ってきた通知が、ロック画面を明るく照らし出す。  霞ゆく視界の中、私が最期に捉えたものは── 『タクヤ:無事ですか?』  頬を涙が伝う。  ──ああ、私、私、本当に馬鹿だなぁ。    ぐにゃりと視界が歪み、意識が遠のく。世界は暗転した。
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