1人が本棚に入れています
本棚に追加
手を振りほどき、扉の方に駆け出した。置いていたバッグを足にひっかけ、中のものが散乱する。よろめきながらも、扉を目指した。
しかし、あと一歩のところで彼が後ろから覆い被さってくる。重みを受け、私はうつ伏せに倒れ込んだ。彼はそのまま、容赦なくのしかかり、私の首にその両手をかけた。
「──どうして、どうして逃げようとするんですか⁉︎一緒に死んでくれるって、言ってくれたじゃないですか!貴女も、僕をからかっていたんですか⁉︎ねぇ、ナオさん!どうして!」
「違う、違うのッ!私はナオさんなんかじゃないの!許してッ、離してェッ……ェッ……」
彼の結婚指輪が、首筋に食い込む。次第に、首全体がぎりぎりと締め付けられて行く。
──苦しい、苦しい、助けて誰か──
どうにか助けを呼ぼうと、前方に転がるスマートフォンに、必死に手を伸ばす。しかし震える指先は、虚空を虚しく掻いただけだった。
その時、新しく入ってきた通知が、ロック画面を明るく照らし出す。
霞ゆく視界の中、私が最期に捉えたものは──
『タクヤ:無事ですか?』
頬を涙が伝う。
──ああ、私、私、本当に馬鹿だなぁ。
ぐにゃりと視界が歪み、意識が遠のく。世界は暗転した。
最初のコメントを投稿しよう!