あまりに素敵な人なので

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 表情や語気からは、分かりやすく喜びが伝わってくる。正直、オーバーなくらいだ。目尻には、うっすらと涙まで滲んでいるように見えた。私は、少々面食らいながらも、決して悪い心地はしなかった。 「あまりに素敵な人なので、つい。こんな美人と一緒に過ごせるなんて、まるで夢みたいだ。本当に嬉しい」  そんな彼の言葉に、私は再び顔を熱くしながら、返答する。 「いえいえ、そんな……あの、今日はよろしくお願いします」 「はい。こちらこそ、どうかよろしくお願いします。あらためまして、僕は」  その時、丁度近くの大通りを街宣車が通りかかり、大音量を響かせて、私たちの会話を阻んだ。赤信号に捕まっているのか、静まる気配がない。気まずい空気が流れた。 「騒がしいですし、場所変えましょう」  身振りを交えて、彼はそう提案し、歩き出した。私は頷き、彼について行く。  彼に案内され、お洒落な外観のカフェに入店する。中は客がまばらで、落ち着いた雰囲気だ。私たちは、そこでコーヒーと軽食を注文し、あらためて言葉を交わす。 「本当に、お会いできてよかったです」 「ええ、こちらこそ」 「実は僕、これまでも約束をした人がいたのですけれど、駄目で……実際に会えたのはあなたが初めてなんです」 「え、そうなんですか?」 「はい。冷やかしだったのか、気が変わっちゃったのか、分からないけれど、いつもすっぽかされてばかりで」  そんなことがあるのだろうか、と私は思う。けれど、前にアプリで会った男性も「よくドタキャンされた」と話していた。このようなアプリは多くの場合、男性側が有料な一方で、女性側は無料で利用できるのだ。気軽さのあまり、不誠実な振る舞いをする女性がいてもおかしくはない、と納得する。 「それは酷いですね」 「ええ、本当に」  彼は表情を曇らせたが、すぐに笑顔を見せた。 「だから今回、本当に嬉しかったんです」  彼は、私をまじまじと見つめる。 「こんなに綺麗な女性(ヒト)が、意外というか、どうして……その、何かきっかけのようなものはあったんですか。あ、失礼なこと聞いちゃいましたよね、ごめんなさい」  周囲の様子を気にしながら、気恥ずかしそうに、そう尋ねた。このような経緯で異性に会うことに対して、まだ初めてなので、羞恥心があるのだろう。
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