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◎Plott入社試験応募作品
タイトル「旅立ちの呪文」
作 彩太
テーマ 「少年が旅立ちのために四つの冒険辞典を集める話」
〓あらすじ〓
パン屋の息子ランプは、冒険者に憧れているが剣も魔法も使えない非力な少年だった。
そのことを街の変わり者、コレクター伯爵に相談すると、伯爵は街中から四冊の冒険辞典を見つけ出すことを条件に、弟子にしてもいいと約束してくれる。
冒険に出たいランプは、伯爵のヒントを頼りに、幼馴染のブッカとともに、地図辞典、アイテム辞典、モンスター辞典、魔法辞典を集めることに成功する。
すると四冊の本の真ん中から、精霊ケアルが現れ、長年、本に閉じ込められた恨みだと、戦うことになる。戦闘の末、ランプはクエストの達成特典、旅立ちの呪文、回復魔法ケアルを手に入れることになる。
そして、そのケアルには、怪我を自力で直すことができれば今よりずっと遠くまで冒険ができると言う伯爵からのメッセージが込められていた。
伯爵の気づかい勇気をもらったランプは冒険者として自信をつけ、仲間とともに次のクエストに挑戦することを決めるのだった。
人 物
ランプ(14)パン屋の息子。
冒険に憧れる優しい少年。
コレクター伯爵(70)街の変わり者の老人。
激しい収集癖がある。
ブッカ(14)古本屋の娘・ランプの幼馴染。
積極的でませてる。
ケアル(10)回復系の精霊。齢は見た目年齢。
なにかとやかましい。
パヤム(38)パン屋。ランプの父。
豪快だが臆病。
ママム(38)パン屋。ランプの母。
太っている優しい。
戦士A・B(各28)
兵士A (25)
※以下、本文、四百字詰原稿用紙三十三枚。
〇クィーンパレス王都・外観
巨大な湖に囲まれた背の高い城。
王都の街並みのうえを鳩が飛んでいる。
〇同・城下・『パヤムの店』・前
離れのある三角屋根の小さなパン屋。
店のなからパヤム(38)の威勢のいい
声が聞こえてくる。
パヤムの声「ほら準備が出来たぞランプ。今
日も伯爵のところへパンを届けてくれ。寄
り道するんじゃねぇぞ!」
ランプの声「わかっているよ父さん。じゃぁ
行ってきます!」
店の扉の奥からバスケットを抱えたラ
ンプ(14)が駆け出してくる。
〇同・クィーンパレス城・前・橋
バスケットを手に走ってくるランプ、
城に向かって伸びる橋の前に出来た人
だかりを見つけ足を止める。
ランプ「あぁ旅の戦士様だ」
と、憧れの視線で戦士A・B(各28)
を見上げる。
そんななか王国兵士A(25)が人々の
前で命令書を読み上げる。
兵士A「え~、この度、クィーンパレス城で
は王女マリーナ姫の親衛隊を募集すること
になった。合格者には名誉と多額の給金が
払われることになる。腕に自信があるもの
はふるって試験に参加してもらいたい。以
上だ」
言い終わると兵士は部下と一緒に立札
を道に打ち込む。
それを見上げる戦士A、B。
戦士A「このご時世に金貨十枚とは豪勢だな」
戦士B「あぁそれに姫の親衛隊の称号をもら
えればどこにいっても恥をかくことはない
だろうな」
戦士A「じゃぁ早速試験と行くか?」
戦士B「ふん、大金を稼ぐのは俺のほうだぜ」
二人は堂々とした姿で城に向かう橋を
渡って行く。
ランプはその背を見つめ力瘤を作るが
自身の細腕に肩を落とす。
遠くからラッパの音がする。
ランプ「あ、伯爵のラッパだ」
と、顔をあげるとバスケットを握り急
いで走り始める。
〇同・コレクター伯爵の家・外観
立派な洋館。
〇同・伯爵家・居間・中
ランプが部屋に入ってくる。
ランプ「しつれいします」
壁際に、昆虫、切手、植物の標本がな
らんでいるが、部屋は掃除されず足も
とには大量のガラクタが転がっている。
ランプ「伯爵、ガラクタ……、いやコレクシ
ョンがまた増えましたね」
長机の一番奥で片眼鏡をつけ歯車の仕
分けをしていた長い白髭のコレクター
伯爵(70)が顔をあげて見せる。
伯爵「おぃおぃ、わしはこんなものじゃまだ
まだ満足せんぞ。世界中のマニアアイテム
を、集めて、集めて、集めつくしてこそ、
人呼んでコレクター伯爵なのじゃからな!」
と、手元のラッパをプーと吹く。
伯爵「でわコレクター伯爵の名において命ず
る。パヤム・パン店の四十七品目のパンの
うち四十番と四十一番の品を出してもらお
うか?」
ランプ「は、はい。本当はうちのパンに番号
なんてないんだけどな……。四十番ミート
ソースパスタのサンドイッチと四十一番ポ
テトサラダのサンドイッチです」
と、ランプはバスケットのなかみを机
のうえに並べて見せる。
伯爵はサンドイッチに手を伸ばし、
伯爵「ふむよしよし、これでパヤム・パン店
の食べ残しはあと六品。コンプリートに向
かって順調に進んでいるぞ。ほほほほ……。
ん? どうしたランプ、浮かぬ顔をして」
ランプ「今、お城で姫の親衛隊の募集をして
いるんです……」
伯爵「ランプ、お前は騎士にでもなりたいの
か? もぐもぐ」
ランプ「だって筋骨隆々で長い剣を持ってい
たら、パン屋の息子の俺なんかよりずっと
格好良いじゃないですか?」
伯爵「では戦士学校でも魔法学校でも好きな
学校に行けばいいではないか?」
ランプ「無理ですよ。俺、非力だから……」
ランプは小さな身体で肩を落とす。
伯爵「もぐもぐ、ふむ……。ランプ、近くに
よれ。目を見せてくれぬか?」
ランプ「な、なんですか?」
伯爵はポケットからペンライトを取り
出すとランプの左目を照らす。
伯爵「お前、勇者になる気はないか?」
ランプ「勇者になんてなれるわけないですよ」
伯爵「しかし、お前は宿命を持っておる」
ランプ「………宿命?」
伯爵「お前がパヤムからもらった名前。実に
良い名前じゃないか。闇を照らすと者と書
いてランプ。わしは勇者にぴったりな名前
だと思うがな」
伯爵は小さく笑うとペンライトの明か
りを消して見せる。
伯爵「どうじゃなランプ。わしのしたで少し
修行をして見ないか。わしも最近、年でな。
丁度、荷物持ちが一人欲しかったんじゃよ」
ランプ「ほ、本当ですか?」
伯爵「あぁ、ただし条件がある。今から指定
する四冊の冒険辞典を集めてわしの所に持
ってきて欲しいのじゃ」
ランプ「その本はどこにあるんですか?」
伯爵「一冊目はお前の背中にある」
ランプは背後の書棚から「冒険辞典第
一巻、地図辞典」を取り出し本を開く。
ランプ「(感動)わぁ……」
伯爵「どうだい世界は広いじゃろ。この世は
冒険で溢れておるのじゃ」
ランプ「その他の本はどこにあるんですか?」
伯爵「まず二冊は子供の頃のお前の父親、パ
ヤムにくれてやった。もう一冊は山小屋、
わしの実験室に置いてある」
伯爵、ランプに微笑み、
伯爵「宝探しは楽しいじゃろう。弟子らしく
コレクト魂で本を探し出してみせろ!」
ランプ「は、はい。ありがとうございます!」
伯爵「ほほほ、早合点するなよ。本を全て集
めることができれば、さらなるご褒美があ
るかもしれんぞ? ほっほっほっ……」
ランプは辞典の裏表紙に四分の一だけ」
書かれた魔法陣に気づく。
ランプ「………これがヒントかな? 伯爵、
俺、頑張って全部集めて見せますから!」
と、笑顔を見せる。
〇同・『パヤムの店』・外観
ランプの声「ただいま」
〇同・パヤムの寝室・中
地図辞典を抱えたランプが書棚を漁っ
ている。
ランプ「あれおかしいな。同じ本がないや」
棚の引き戸をあけるがやはり何もない。
〇同・作業場・中
机の前でパン作りの後片付けをするパ
ヤムとママム(38)。
ランプが二階から降りてくる。
パヤム「帰ってきてそうそう何をやっている
んだ」
ランプ「父さんが大昔クレクター伯爵から借
りた本を探しているんだよ」
パヤム「ドッキ! そんな本を何にするんだ」
ランプ「冒険辞典を四冊集められたら伯爵が
弟子にしてくれるって約束してくれたんだ」
ママム「まぁ、親子ね。アンタも昔、冒険者
に憧れていたわよね」
パヤム「ば、馬鹿、余計なことを言うな」
ランプ「父さん、冒険辞典はどこにあるの?」
パヤム「つ、使わねぇものは物置に突っ込ん
でいるに決まってるだろ!」
ランプ「そう。じゃぁ探してみるよ」
と、不思議そうな顔をしながら部屋を
出て行く。
〇同・庭・物置・前
辞典を抱えたランプが歩いてくる。
どこからともなく聞こえる声。
本の声「……の、呪ってやる」
ランプ「ん?」
辺りを見るが誰もいない。
ランプはそのまま物置小屋のなかに入
っていく。
〇同・物置・中
埃だらけ、蜘蛛の巣だらけの汚い部屋。
ランプが突き当りの木箱を漁っている
が目当ての本はない。
ランプ「あれ、ないなぁ。どこにあるんだろ
う」
また声が聞こえる。
本の声「……右よ。早く見つけなさいよ」
ランプ「……また?」
と、声につられながら辺りをみ、ベッ
ドの下を覗き込む。
ランプ「あっ、あった!」
乱雑に積まれた本の山から、「冒険辞
典第二巻、アイテム辞典」を取り出す。
ランプ、埃を払い手に持った辞典の裏
表紙と二巻の裏表紙を合体させる。
ランプ「やった本物だ。きっと全部の本を集
めると魔法陣が完成するんだ」
と、アイテム辞典をめくってみ、
ランプ「この本を読めば、薬草や武器に詳し
くなれそうだな……。丁度いいや」
と、傍らのコート掛けに忘れられたナ
ップサックを手に取り二冊の辞典をそ
のなかに押し込んだ。
〇同・外・庭
ナップサックを背負って庭にでてくる
ランプに、調理場の開いた窓からママ
ムが話しかける。
ママム「どう、ランプ? 探し物は見つかっ
た?」
ランプ「一冊は見つかったけど、もう一冊が
どうしても見つからないんだよ。母さん」
ママム「困ったわね。あなたのもらった本で
しょ。どこにしまったかよく思い出してあ
げなさいよ」
傍らのパヤムに話しかける。
パヤム「も、もう何十年も前の話だ。忘れち
まったよ」
ママム「な~にか隠しているんじゃないの?」
パヤム「か、隠しごとなんてあるかよ」
本の声「………古い本屋」
ランプ「(声につられ)父さん、もしかして
売っちゃたんじゃないの?」
パヤム「ギクゥッ!」
ママム「そうなの?」
パヤム「あぁそうだよ。売っちまったんだよ。
伯爵からもらったモンスター辞典の絵が怖
すぎて、夜寝られなくなっちまったのさ」
ママム「まぁ情けない」
パヤム「うるせぇな、ガキの頃の話だよ」
ランプ「わかったよ。わかったから喧嘩はや
めて、俺、今からブッカの店にいってくる
からさ!」
パヤム「おぃ本当に大昔の本なんだぞ!」
ランプ「大丈夫、まだある気がするんだ」
ランプは庭を駆け出して行く。
〇同・古本屋・ブッカの店・外
こじんまりとした小さな店。
〇同・中
三つほどの棚のならんだ狭い店内。
カウンター内で肘をついて店番をする
ブッカ(14)が大あくびをしている。
ブッカ「ふぁ~ぁ、本当に暇ね。ここのお店
だけが世界から隔絶されているみたい」
そこへランプが駆け込んでくる。
ランプ「ねぇブッカ、探している本があるん
だけど」
ブッカ「あらやだ、ランプいらっしゃい!。
相変わらず小っちゃくて可愛い」
カウンターから飛び出したブッカがラ
ンプを抱きしめる。
ランプ「ご、ごめんよ。俺、今、急いでいる
から、ここのお店に冒険辞典の三巻は置い
ていないかな?」
ブッカ「勿論あるわよ。だけど、お友達料金
だったら三百ギル、でも恋人料金だったら
半額でいいわ」
ランプ「え、えぇ~。半額だったら嬉しいけ
ど。そもそも家からでるときに財布を持っ
てくるのを忘れちゃったなぁ」
本の声「………なにイチャイチャしてるのよ。
私がいつまでも復活できないでしょうが」
ブッカ「ん? ランプ何か言った?」
ランプ「あれ、やっぱりブッカにも聞こえて
る?」
ブッカ「あっ、あいつが正体よ」
ブッカが指をさすと棚のうえで白いネ
ズミが鳴いているのが見える。
ランプ「ネ、ネズミ?」
ブッカ「私、あいつのこと大嫌いなのよ。寝
てるときに母屋にまで入ってきて足を噛ま
れたこともあるんだから。ねぇ、ランプお
願い、あいつをやっつけて。そぉしたら冒
険辞典をタダてあげてもいいわ」
ランプ「う、うん。でもどぉやって捕まえよ
うか?」
ネズミ「チュウ~っ!」
ネズミは隙をついてブッカに飛び掛か
るとその胸元のなかに滑り込んだ。
ブッカ「あん、やん、やだ。へんなところさ
わらないで!」
ランプ「ブ、ブッカ。そんなエッチな声出さ
ないでよ」
ブッカ「で、でもネズミが服からでてくれな
いのよ」
ブッカが胸もとをはだけた拍子にネズ
ミがランプに飛び掛かり、その顔をか
きむしる。
ネズミ「キーッ!」
ランプ「痛たたた……」
そのままネズミは軽やかに書棚を駆け
上がり天板のうえで威嚇して見せる。
ランプ「凄く怒っているけど、あんな小さな
動物殺したくないなぁ……」
本の声「遠慮しないで早く捕まえなさいよ!」
ランプはナップサックから聞こえる声
に何かを閃く。
ランプ「そうか!」
と、ナップサックを脇に抱え直し、
ランプ「(叫ぶ)こい!」
ネズミ「キーッ!」
ネズミは、再度、飛び掛かるがランプ
は身を屈めて攻撃を交わす。
地面に着地したネズミは身軽な身体で
右に左に書棚を飛び移り、
ネズミ「ギーっ!」
と、ランプに飛びつき鼻にかじりつこ
うとする。
ランプ「(その刹那)よっ!」
と、声を上げ、ナップサックの口を広
げて見せると、その穴の奥にネズミを
閉じ込めてしまった。
袋のなかで声をあげ暴れるネズミ。
ランプは袋の口を締め上げながら、
ランプ「当分、そこにいてもらうよ。大丈夫、
あとから逃がしてあげるから」
ブッカ「きゃー、ありがとうランプ。さすが
私の王子さま! チュ、チュ、ステキ!」
ランプその熱いキスに照れながら、
ランプ「ははは、それより辞典はどこにある
のかな?」
ブッカ「冒険辞典はここよ」
左奥の書棚のうえから、「冒険辞典第
三巻、モンスター辞典」を見つけ出す。
ブッカ「こんな古い本を何に使うの?」
埃をはらいランプに渡す。
ランプは本を裏返して魔法陣を確認す
ると中身を読む、
ランプ「本物だ。確かに父さんが怖がるだけ
あって迫力のある絵柄だな」
と、本を抱きしめ、
ランプ「俺、今、コレクター伯爵の弟子にな
るために試験をしているんだ。最後の一冊
は伯爵の山小屋にあるから取りに行かなく
ちゃいけないんだよ。ブッカ、本をくれて
ありがとう。また今度、遊ぼうね」
ブッカ「待って暇だから私もついていくわ」
ランプ「えっ。お店はどうするの?」
ブッカ「いいのいいの。だってこのお店はお
ばあちゃんが趣味でやっているお店なんだ
から。だからそんな本も残っていたのよ」
と、ランプの腕に抱き付いて見せる。
〇森
遠くにクィーンパレス城が見える。
モンスター辞典を読みふけるランプと
棒切れを振り回すブッカが腕を組んで
歩いてくる。
ブッカ「きゃ~っ、こうやって歩いていると
デートをしているみたいね」
ランプ「俺はテストちゅうなんだけなぁ……。
ひやっ!」
と、驚いた拍子に背中のナップサック
のなかでネズミが暴れだす。
ネズミ「チュゥ、チュゥ、チュゥ、チュゥ!」
本の声「バカ、このネズミをなんとかしなさ
いよ! 本がかじられたら私が上手に転生
できなくなっちゃうでしょ!」
ランプ「えっ、もしかして本が喋ってる?」
ブッカ「そ、それ、絶対に違うわよ……」
辺りが突然薄暗くなる。
森の木々の間から怖い顔をした緑色の
人魂、ヤマビコの群れが浮かび上がる。
ヤマビコたち「ナム、ナム、ナム、ナム……」
と、お経を唱えたかと思うと二人に向
かって襲い掛かってくる。
ランプ「うわぁっ!」
ブッカ「きゃぁ!」
二人はナップサックと棒きれで戦うが
二人の攻撃は空をきるばかり。
背中を向け合い武器を構える二人。
ブッカ「なんなのよ。この化け物たち」
ランプ「こいつらはヤマビコって言う低級モ
ンスターだよ。今、読んでいるモンスター
辞典に載ってる。旅人を脅かして食べ物を
盗む習性があるんだって」
ブッカ「嘘。私、デート気分できたから食べ
物なんて持っていないわ」
ランプ「俺もさ」
ヤマビコA「ナム~っ!」
ブッカはその体当たりをかわし、
ブッカ「何か良い方法はないの?」
ランプ「この本によるとヤマビコは逆に驚か
せると逃げて行くみたいなんだ」
ブッカ「なるほど、じゃぁ私が全部まとめて
倒してあげるわ。かかってきなさいよ!」
ブッカは棒切れを構え啖呵をきる。
だがその前身は恐怖で震えている。
ヤマビコたちは怯まず、
ヤマビコB「ナム、ナム~っ!」
ヤマビコC「ナム、ナム~っ!」
と、全員で二人に襲い掛かってくる。
ランプ「う、うわぁ~っ!」
逆に怯んだランプが尻もちをつく。
ナップサックのなかで地面に叩きつけ
られたネズミが激しく暴れる。
ネズミ「チュウ、チュウ、チュウ!」
本の声「うるさい、うるさい、うるさい!」
ヤマビコたちに取り囲まれたブッカは
うずくまり身動きが取れない。
ランプ「あ、あぁ、このままじゃブッカがヤ
マビコたちに食べられちゃうよぉ……」
ネズミ「(暴れ)チュウ、チュウ、チュウ!」
本の声「馬鹿ね、ヤマビコは人間を脅かすこ
としかできない低級モンスターよ! この
クソネズミを使ってなんとかしなさいよ!」
ランプ「も、もしかして本当に本が喋ってる
?」
本の声「もしかしなくても喋っているわよ。
この間抜け! アンタは一生冒険者になれ
なくてもいいの」
ランプ「そ、それは嫌だよ」
本の声「だったら戦いなさいよ!」
ランプ「い、言われなくたって戦えるさ!」
ランプはナップサックに手を突っ込み
暴れるネズミを掴むと、ブッカを取り
囲むヤマビコに向かって投げつけた。
ランプ「くらえ、ネズミ爆弾!」
ネズミ「キッ~ッ!」
ネズミは凶暴な面構えでヤマビコAの
後ろ頭にかじりつく。
ヤマビコA「ナ、ナム~~~~~~っ!」
ヤマビコは一匹が怯むと、その他のヤ
マビコも怯み右往左往し始める。
相手かまわず追い回すネズミ。
ネズミ「チュウ、チュウ、チュウ!」
ヤマビコたち「ナム、ナム~~~っ! ナム、
ナム~~~っ」
ネズミ「チュウ、チュウ、チュウ!」
ヤマビコたち「ナム、ナム~~~っ! ナム、
ナム~~~っ」
そしてパニックを起こしたヤマビコは
ネズミとともに森の奥に消えてしまう。
ランプ「袋のなかで随分、ストレスが溜まっ
ていたんだな。勇ましいや」
と、呟くと森に光りが帰ってくる。
ランプ「ブッカ、大丈夫?」
ブッカ「助けてくれてありがとう。やっぱり
ランプは私の王子さまね」
と、ランプに抱き付き抱擁をする。
本の声「あ~、うざい。さっさと最後の辞典
を見つけてくれない」
ランプ・ブッカ「はっ!」
二人は我に帰り、
ランプ「俺たちはこの本の声に助けられたん
だ。もしかして君は本のなかに住む妖精か
なにかなの?」
と、モンスター辞典に話しかける。
本の声「そうよ。私はその昔、悪い魔法使い
に騙されてこの本のなかに閉じ込めれた精
霊よ。最後の辞典がこの先の山小屋にある
わ。早く私を魔法陣のなかから助け出して
ちょうだい」
ランプ「なるほど。それが伯爵の言っていた
ご褒美なんだね。わかったよ、なるべく早
く君を助けるから、もう少し我慢してね。
急ごうブッカ」
ブッカ「うん、わかったわ」
ランプはナップサックに辞典を押し込
むとブッカと一緒に走り出した。
〇山小屋・外
沢山の煙突のでたヘンテコな建物。
それを見上げるランプとブッカ。
ブッカ「やっとついたわね。それにしても変
な家」
ランプ「天才だからね。さぁ入ろう」
と、苦笑いで扉を開ける。
〇同・中・廊下
薄暗い廊下。よくわからないロボット
や銃が壁際に並べられている。
ランプの袖を握りながらブッカが喋る。
ブッカ「どうしてコレクター伯爵はこんな遠
くに山小屋を持っているの?」
ランプ「伯爵はコレクション集めの旅に良く
でるから、山小屋を研究室に使ってモンス
ター退治用のアイテムを作っているんだよ」
ブッカ「そんなの街でやればいいのに」
ランプ「伯爵は失敗も多いからね」
と、叩いた人形の首が飛び出し、ケタ
ケタ笑う。
ブッカ「きゃっ、趣味悪い……」
ランプの腕に抱き付きイチャつく。
本の声「く、イラつく覚えてらっしゃい……。
最後の一冊は二階の突き当りの部屋に置い
てあるわ」
ランプ「うん、わかったよ。精霊さん」
そう言って突き当りの階段を登る。
〇同・二階の部屋・中
小さな机の置かれた広い部屋。
ランプは窓辺に置かれた「冒険辞典第
四巻、魔法辞典」を手に取り、息を吹
きかけ裏表紙を見つめる。
ランプ「やった魔法陣の欠片が書いてある。
本物の冒険辞典だよ。これで魔法の勉強が
出来るんだ」
目を輝かせ本を読みかじる。
傍らに立つブッカ。
ブッカ「その本に精霊を復活させる方法が書
いてあるの?」
ランプ「ちょっとまってね」
と、ナップサックから全ての辞典を取
り出すと四冊の裏表紙を合体させ床の
上に並べ魔法陣を作り上げる。
本の声「後はその魔法陣に手を乗せて呪文を
詠唱するだけで私は復活できるわ」
ランプ「うん」
ランプは床にひざまずくと魔法辞典の
裏表紙を開いて呪文を覚え本をとじる。
それから魔法陣に両手を乗せ、
ランプ「(詠唱)空と海と大地を束ねる全て
の神々よ。四編の知恵を集めし勇気あるも
のに、始まりの力を与えたまえ………。ケ
アル……」
魔法陣が光り風が吹き抜けたかと思う
とそこから小さな妖精姿の精霊ケアル
(10)が浮き出してくる。
ケアル「あ~はっはっはっ! 私をおちょく
るバカップルのお二人さん騙されたわね。
誰があなたたちの味方になんかなるもんで
すか。私の名は精霊ケアル。数十年間、埃
まみれの本のなかに閉じ込めれた恨みをこ
こで晴らしてあげるわ。私は自由よ。かか
ってらっしゃい!」
ケアルは身体は小さいが窓から入る逆
光のせいで翼を持った魔獣に見える。
ケアル「ふふ、腰が抜けちゃったかしら、こ
っちから行かせてもらうわよ!」
と、その右手に力を証明するような大
きな風の塊りを作って見せる。
ブッカ「た、戦っちゃ駄目よ、ランプ。私た
ちの力じゃかなわないわ」
ランプ「で、でも戦わないと逃げられそうに
ないよ」
次の刹那、背後の扉が開く。
そこにはサングラス姿に掃除機のよう
な武器を持った老人が立っている。
ブッカ「こ、こんな時に新しい敵?」
伯爵「敵? ブッカ、わしじゃよわし。コク
レクター伯爵だ」
と、サングラスを取って見せる。
ランプ「は、伯爵!」
伯爵「おぉ伯爵だ。ランプ、わしはお前に試
練を与えたがさすがにモンスターには苦戦
すると思ってな、助っ人にきてやったのだ。
ところでこやつはお前が呼び出したのか?」
ランプ「は、はい。魔法辞典の始まりの呪文
を詠唱したら戦うことになったんです……」
伯爵「ほぉ、わしの家でお前の目をみた時に
は回復魔法の力は少しはあると思ってケア
ルを授けてやろうと思ったのだが。まさか
召喚士の力を持っていたとわな」
ランプ「……召喚士?」
伯爵「精霊、幻獣を操る特別な仕事のことじ
ゃよ」
ケアル「なに、言っているのよ! エアロ!」
伯爵「ほぉっ!」
空気の斬撃を掃除機の柄で交わし、
伯爵「ランプ、精霊の捕まえ方はもう勉強し
たかの?」
ランプ「いえまだです」
伯爵「答えは簡単。力で誰が主人か教えてや
ればいいんじゃよ。それ、バキューム!」
ケアル「な、なに、私が私がそんな掃除機に
負けるとでも思っているの」
伯爵「はっ、はっ、はっ。精霊さん、寝起き
で大声はめまいがおこるぞ。それ最大バキ
ューム、魔力吸引じゃ!」
ケアル「何よ。何よ。何よ! エアロ、エア
ロ、エアロの大盛よ!」
伯爵「ほい、ほい、ほいのちょいや!」
攻撃を全弾かわすとケアルの頭に一撃
を入れる。
ケアル「あん!」
伯爵「今じゃ!」
ケアル「痛たたたっ……」
ヘロヘロと羽ばたき弱めるケアルをラ
ンプが両手で捕まえる。
ブッカ「さぁランプ、契約よ」
ランプ「う、うん……。精霊ケアル、俺と契
約を交わすんだ」
ケアル「嫌よ。何であんたなんかと」
伯爵「精霊は聞き分けが悪い。ガツンといか
んと」
ブッカ「そうよガツンといって、子分にしち
ゃいなさいよ!」
ランプ「ごめんよ、ケアル。俺は冒険者にな
りたいんだ。今から君は俺のしもべだ!
そぉ~れ!」
ランプは両手でケアルを叩き潰した。
ケアル「いやん!」
と、わめき煙玉になると、ポワリと音
を立てランプの頭の上に再度現れる。
伯爵「よし、これで契約終了じゃ。精霊ケア
ル、以後終生主人の言うことを聞くように」
ケアル「わかったわ。でももう魔法陣のなか
に入るのはいやよ。狭くて暗くて気分が滅
入るのよ」
伯爵「ランプ、お前はどうじゃ?」
ブッカ「丁度良いじゃない。この娘を二人で
育てましょうよ。二人の冒険で生まれたん
だから私たちの赤ちゃんみたいなものでし
ょ?」
ランプ「(赤面)え、えぇ、そんな表現つか
わないでよ」
ケアル「じゃぁパパ、これからはここが私の
ソファーね」
ケアルはランプの頭であぐらをかく。
ケアル「それじゃぁ、これが私の忠誠の証よ。
ケアル!」
ランプ、きらめく魔法の効果に、
ランプ「あ~、体中がすっきりする」
伯爵「そう。それが回復魔法の効果じゃ」
ランプ「……でも伯爵、どうして始まりの魔
法が回復魔法のケアルなんですか?」
伯爵「なぜだと思う?」
ブッカ「簡単じゃない。自分の怪我を自分で
直すことができれば、今より少しだけ遠く
に冒険できるからでしょ?」
ランプ「……あぁ、なるほど。だから伯爵は
俺のために」
伯爵「そういうことじゃ。ところでランプ、
少しは自信がついたついでにクィーンパレ
ス城の姫の親衛隊試験に応募してみんか?」
ランプ「え、でもまだ俺は修行を始めたばか
りですから?」
伯爵「なぁ~に、お前は世にも珍しい召喚士
の卵かもしれんのじゃ。案外、上手く行く
かもしれんぞ」
ブッカ「そうよランプ、思い切ってやってみ
れば。何もやらずに何か代わる未来なんて
あるわけないでしょ? もし失敗したら私
が目一杯甘やかしてあげるから」
ケアル「腕が飛んだら私が直してあげるわ」
伯爵「よっしいっそうのこと、パーティーで
応募してみたらどうじゃろう?」
ランプ「それって皆でお城に行くってことで
すか?」
ケアル「四人パーティーのリーダーって意外
にお姫様も評価してくれるかもね?」
三人がランプに向けて親指を立てる。
ランプ、照れ笑いをして、
ランプ「じゃぁ俺、もっと勉強するよ」
そういって床に並んだ四冊の冒険辞典
を抱え上げる。
その顔は希望に溢れているのだった。
おしまい。
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