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十年続けたサッカーの熱が、別のものに移行する事を僕はまだ知らない春の日、本物の桜は美しいと思った。ゲームで描かれた桜とは違い、時と場合によってはそれを凌駕する。
彼がそれを実感したのは、彼が通うことになる美桜ヶ丘高校の入学式に来た時だった。彼は同じ中学校の、しかも同じサッカー部だった高槻高斗と共に同じ高校へと入学した。
「十三? ぼーっとして、どうした??」高槻がそう言うと、十三と呼ばれた彼・外山十三は「いや、リアルの桜は美しいな……と思って」と、心に感じたままを答えると、高槻は「なんだそれ」と興味の無い様子で答えた──
進学、入社、転勤──四月は人がそれまで居た場所を離れ、新たな場所へと身を移し、委ねようとする。二人にとってそれは例外では無かった。地元の仲間だけで集まっていた中学生とは違い、高校生ともなれば少なくとも市内や市外、果ては県外からも集まり顔を合わせることになる。期待がいやがおうにも高まらないわけはなかった。中学校では難しかった恋の予感もあるかもしれない。絶対とは言わないが、期待だけは未知の存在の真実のようにする。外山と高槻も既にその予感はしていた。外山はサッカー部の一軍で、高槻は二軍だった。同じ学校の同じ部活でも、練習中に顔を合わせることはこれまで限られていた。だから、高校では自分が知りえない人と出会う可能性を否定出来なかった。
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