0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
後日、帰り道の電車の中で元は、近くで自殺があったというニュースを見つけた。
あのヘラヘラとした笑いを思い出す。
駅を出てから立ち止まり、あのバーに行ってみようか店を見上げた。
だが、この前の歌が聞こえてきて、元はそちらに足を向けた。
周りには誰もおらず、歌もちょうど今終わった、
「すみません、その曲、なんてタイトルなんですか? 素敵な曲だなって思って」
「ありがとうございます。挽歌、です。葬送の歌」
「挽歌」
「ええ。この曲だけは、歌詞の付けられない歌なんです。つけたくない、ていうのが、正しいですかね」
「なるほど。ありがとうございます。図々しい話だけど、もう一度、聞かせてもらうことはできます?」
「ええ。喜んで」
彼女は微笑んで、キーボードの上で指を躍らせる。
優しくて悲しい歌声が、夜空に向かって飛んでいく。
気づいた時には、元の頬を、涙が下りていた。
今日は、酒を飲もう。
指で涙を拭きとって、元は笑った。
了
最初のコメントを投稿しよう!