0人が本棚に入れています
本棚に追加
まただ。私の意思など関係なく大人だけが知るところで話が進んでいるのだろう。そんな軽々しく娘を嫁に出すなんて、父は何を考えているのだろうか。
「ええ、勿論です。三日後に港でお会いしましょう」
「承知した」
「寧々さん。突然だけどこれから私の屋敷に来ないかい?土産に何を持って行けばいいか悩みすぎて大量の菓子があるんだよ」
はにかむ玖善さんは本当に美しく思わず見惚れてしまう。
それに気が付いたのかニタニタ笑う醍狗がぱちんと手を叩く。
「そりゃあいいですね。せっかくですし屋敷までの空の旅を楽しんでください」
「空?」
「そうですよ。都からここまで天狗がわざわざ歩いてくるわけないじゃ無いですか」
「天狗……?」
醍狗はおもむろに縁側に向かい歩きだすとピューと指笛を吹いた。
どこからか大量のカラスがやってきたことで昨夜の列車での光景を思い出す。やはり初めから醍狗は私を狙って声をかけてきたのだ。当主の嫁を逃がさないために。
それを玖善が指示したのかは分からないが、陰湿で気味が悪い。
「それでは、寧々さん行きましょうか。伊神さん、我々は一度失礼いたしますね」
最初のコメントを投稿しよう!