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そう言った玖善は父と母の顔の前に手のひらを近づけ、小さな声でお休みなさいと呟いた。
何が起きたかわからないが、両親はぱたりと床に倒れ寝息を立て始める。
「え?なに?」
「大丈夫。寝ているだけですよ。おい、寝室へお連れしろ」
玖善が一声かけると、黒い大きな羽を生やした人間のようで人間とは異なる何かが両親を抱え部屋から出て行った。
「そんなに目を丸くして、可愛らしい方だ。さて、行きましょうか」
手を引かれ玄関から縁側へ向かうと大きな籠が用意されており、脇にはさらに大きな羽をはやした醍狗が立っていた。
「貴方たち人間じゃないの?」
「私は天狗の里で頭を努めている天狗ですよ。人間だと思ってくださったんですか、それはそれは」
「私も、あまり公にはできないのですが人間ではないですよ。歴代の当主は人間だったんですがね。訳あって魔術の使える半妖の私は養子として迎えられたんです」
「天狗……半妖……。醍狗のお面は趣味じゃなかったのね」
魔物がいるという話はたびたび聞くが、そんなの妄言だと思っていた。
病気だって、見えない力で治すなんて嘘だ、医者の技術がすべてなのだと思っていた。
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